平和だった住宅街にて
「これは……まずいですね」
恵が不安げに言う。
「住宅街の中央に異界。見張りも誰もいない。魔物が一匹でも抜けてくればとたんに大惨事です」
恵の言う通りだ。だから、僕のやることは決まっていた。
「今から異界に突入してボスを倒してくる。恵さんと優子はここで抜け出てきた魔物の対処に当たってくれ」
「あら、私も行くわよ」
優子は何事もないように言う。
「コトブキなら私を守ってくれるでしょう?」
「けど、優子……」
危険すぎると思う。どんな魔物が待っているのかわからないのだ。
優子はとたんに顔をしかめた。
「危険だって言うなら、何が出てくるかわからないのに回復役も連れずに一人で行くことのほうが危ないと思うわ」
「優子さんの言うとおりです」
恵が同意する。
「行ってください。ここは、私が守ります」
僕はしばらく反論の言葉を探していたが、諦めてため息を吐いた。
「わかったよ。行こう。すぐにこの異界を閉じるんだ」
「了解」
優子は上機嫌に言うと、ステップを踏むようにワープゲートの隣に移動して振り返る。
「行こう、コトブキ。この町は私達が育った町だ。私達が守るんだ」
僕は苦笑した。
聖女のホルダーの優子。支援役としてこれほど心強い存在はいない。
「行くか」
しかし、さっきからする謎の既視感はなんだろう。
僕は、この緊急時だと言うのに、どこかノスタルジックな感覚を覚えていた。
続く




