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禁断の異界

「五月雨・改!」


 槍の雨が敵の大軍に向かって降り注ぐ。

 そう、大軍だ。

 少なくとも二十はいる。


 それが、僕らのパーティーに向かって突進をしている。

 一人が倒れようとその後ろの一人がそれを踏みつけて突進してくる。

 四足歩行に皮の厚さも相まってサイ、いや、実物を見たことはないがトリケラトプスのようだ。


 一匹が僕の横を通り抜けた。


(しまった!)


 後ろには近接戦闘が苦手な後衛陣がいる。

 突進されればひとたまりもないだろう。


「チャージ!」


 はじめが唱えた瞬間その体が光った。

 はじめは次の瞬間には前衛の隙間を縫った敵の眼前に移動していた。

 その小柄な体をすっぽりと隠すような盾で、敵の突進を受け止める。


「琴谷先輩!」


「ああ!」


 五月雨・改をもう一度前方に放ち、後方に向かって槍を掲げる。


「一閃投華金剛突!」


 槍が光の線となってはじめの抑えている敵を貫通した。

 一先ず体勢は立て直せたと言って良いだろう。


「流石聖騎士のホルダー。一年にして十分な筋力だね」


 最後尾の師匠が腕組みしながら言う。


「あと一息、頑張るぞ!」


 僕の鼓舞に部員達の反応の声が重なる。

 そして、僕らはなんとか獰猛な敵の突進を凌いだのだった。


 小さな部屋を発見したのでそこで休憩を取ることにして、座り込む。

 よくある異界の一室だった。


「助かったよ、はじめ。やっぱり筋力が高い人材も必要だな」


「素早さと火力はユニコーンの琴谷先輩に負けます」


 はじめは照れくさげに言う。

 本当、爽やかな男だ。

 徹の弟子と言われたらしっくりくる。


「けど凄いよ、はじめ君。もう戦力になってるもん」


 そう言うのは新規部員の十六夜結月だ。

 僧侶のホルダーで、主に回復を担当する。


「結月ちゃんだって大事なんだよ。魔力特化の僧侶が一人増えるだけでパーティーの生存確率が跳ね上がるからね」


 師匠が言う。


「……怪我人が出ることを祈ってるわけではないのですが、現状出番ないですよね」


「それは後々バフスキルも覚えていってもらうからね」


 優子が珍しく先輩風を吹かせる。

 同じ魔力特化のヒーラーとして親近感があるのだろう。


「もうすぐ夏休みだなあ」


 僕は呟くように言う。


「夏が過ぎれば校別対抗戦だ。はじめは備えておいてくれよな」


「夏休みの間にレベルアップを目指します!」


「良い気合だ」


 あまりにもの真っ直ぐさに僕は苦笑する。

 一緒に戦ってみてあらためてわかったが、彼は掘り出し物だ。

 その実力は十二分に一線級だ。


 校別対抗戦。

 MTを育成する各学校の生徒会メンバーが戦い頂点を目指す生徒会の甲子園。

 その報酬でプリンの自販機を学校に設置できなければ僕は反乱を起こされギロチンにかけられるかもしれない。

 ホルダー達の学校なだけにシャレにはならない。


「結月。優子さんにスキルの取り方とか順番とか訊かなくていいのかよ。二人で支援だろ」


「あ、そうだね。優子先輩いいですか?」


「いいよ~なんでも聞いて。僧侶はスキルツリーきつめだからね」


「優子先輩みたいな聖女のホルダーって憧れます」


「たまたまだよ、たまたま」


「私も僧侶なんで一応混ぜてくださいよ」


 恵が会話に混ざる。

 そして、博識な師匠も交わり僧侶談義に華が咲く。

 女性陣は本当賑やかだ。一部を除き。

 集団が苦手な先輩は、少し離れて気配を断っていた。


 気をつけなければ何処かに行ったかと思ってしまったかもしれない。

 本当、相変わらずだ。


 そういえば、彼女は中衛だがカードを起動していない。


「先輩。カード起動しとかなくていいんですか?」


「うーん。ちょっと、バグっちゃってね。カードが」


「元々四天王戦で混沌種になってたじゃないですか」


「今はそうじゃないというか、説明が面倒臭いというか……」


 師匠はもごもごと言い辛げに言う。

 なにかあったのだろうか。

 僕にはわからないことだった。


「さて。今日は二階まで踏破するよ。久々の手付かずの異界だ。気をつけていこう」


 師匠の言葉に、反応の声が唱和する。

 そして、僕らは再び異界を歩き始めた。マッピングをするのは生徒会で書記も務めるはじめ。

 先頭は大量殲滅スキルも持つ僕だ。


 製造科の純子は師匠とともに最後尾を歩く。

 瞬時にいかなる属性の武器をも作れる彼女は手ぶらだ。

 一年の時に何ヶ月も重い荷物を運んでいた身としては少し羨ましい。


 そして、僕らは二階へのワープゲートを発見し、作ったマップを地上で待つ探索員達に渡し、帰路についた。

 師匠が一人一人を家へと送っていく。


 そして、最後に、僕と、優子と、恵が残った。


「明日の夜辺り、三人で行こうと思う」


「と言うと?」


 唐突に切り出されて、僕は戸惑う。


「禁断の異界だよ」


 僕は息を呑んだ。

 ナンバースですら立ち入りを禁じられている禁断の異界。

 そこに待つモンスター達は凶暴にして強靭だという。


 師匠も、僕も、優子も人類ではトップクラスのホルダーだ。

 だからこそ、入ることを許されたが、危険なことには変わりはない。

 それでもジエンド討伐という目標の為にはうってつけの踏み台だった。


「三人というと、私は連れて行ってもらえないので?」


 恵が笑顔で言う。

 なんだかその笑顔が怖い。

 内心の怒りを殺そうとして行き過ぎた感じだ。


「足手まといだ」


 師匠はばっさりと斬った。

 事実上の戦力外通知だ。

 そこまではっきり言われたら反論の言葉もないようで、恵は口をつぐんだ。


「恵には部活を通じてレベルが上がるように調整しようと思う。もう一年ぐらいかな。一人前に育ててみせるよ」


「初めからそのつもりの配置なんで?」


 恵は呆れたように言う。


「私とコトブキがいれば護衛なんて必要ないってわかるだろ」


「わあ、やる気なくすなあ」


 恵は情けない声になった。


「ま。ってわけで禁断の異界だ。試しに一匹倒してきたが想像以上だ。不死鳥のホルダーじゃなければ腕の一本は持ってかれてたな」


 師匠がそこまで言うとは相当だ。

 僕は緊張のあまり、手に力が入った。

 なにがあっても。

 なにがあっても優子だけは守ろう。そう思う。


「よろしくね、コトブキ」


 僕の心を読んだように、微笑んで優子が言う。

 僕は緊張が少し緩んだ。


「ああ、善処する」


「約束するっていうもんだよ、もう」


 優子はそう言って滑稽そうに笑う。

 僕もつられて笑った。


 戦の前の空元気。

 死闘は目の前に近づきつつあった。



続く

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