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その目つきは鋭く

 放課後がやってきた。

 まるで恋人とのデートを待ちわびているような心持ちだ。

 徹の弟子。僕の一番の親友であり幼馴染の弟子。それと出会う。

 こんなに楽しみなことって中々ない。


 後は、実力が伴うかどうかだろう。

 僕は優子を伴い、張り切って第一体育館に向かった。


「どんな子だろうね、徹の弟子って」


 優子も楽しみそうに言う。


「僕は楽しみだよ。強い子ならいいな」


「弱ければ?」


 困る質問をしてくれるものだ。

 僕はしばし言い淀んだが、目を逸らして答えた。


「落とす」


「徹の弟子でも?」


「仕方ないよ。MTの生徒会には実力がいる」


「例の校別対抗戦、か」


「そゆこと」


 体育館の扉が開いた。

 師匠が、少女のような顔をした小柄な少年を連れてくる。

 それが少年だとわかったのは、男子用の学生服を着ているからだ。

 そうでなければその細身な体は第二次性徴前の男子染みている。


「お待たせ、連れてきたよ」


 師匠は優しく微笑んで言う。

 師匠が上機嫌ということは、実力に満足しているということか。

 僕らは体育館の中央で歩み寄った。


「こんにちは。部員と書記志望なんだっけ」


「ええ、そうなります。貴方の下で学びたい」


 ハキハキとした口調で、明るい表情で言う。

 社交性が完成されている。そんな印象だった。


「徹の弟子なんだっけ」


「正しくは徹さんは兄弟子です。一時期僕の道場に通っていた」


「徹はそんなこともしていたのか」


 僕は半ば呆れながら言う。

 勇者のホルダーになるまでに、徹は色々な道を模索したのだろう。


「そして、僕は徹さんの弟子でもある。型にとらわれない面でかなり鍛えられました」


「そっか」


「初め、僕は貴方を見損なっていました」


 いきなりの言葉に、僕は苦笑する。

 言われてしまっても仕方がないだろう。それほどカメレオンのホルダー時代の僕は徹に頼っていた。


「徹さんを利用し続けて生きているのだと。けど徹さんは言った。琴谷先輩は一緒に歩く友だと。そして、学ぶことは多いと」


 徹はそんなことを言ってくれていたのか。嬉しいものだ。

 徹は、確かに僕を裏切り、利用した。

 けど、友人であるという認識だけはきっと歪んだことはないのだろう。


「一手、ご教授願います」


 そう言って、はじめは剣を召喚して構えた。


「聖騎士のホルダー、はじめです」


「剣術の方も徹に?」


「いえ、祖父に習った部分が多いと思います」


「そうか」


 そう言ってもらえるのはありがたい。

 はじめの実力は僕も知りたいところだった。


 ユニコーンのカードを起動する。

 角が生え、体に白い産毛が生える。

 僕が角に触れるとそれは槍となり、手に収まった。


「最初、僕は貴方が徹さんを利用する寄生虫のように思えていた」


 はじめは、淡々とした口調で言う。

 細められたその目は鋭い。


「けど、違ったんですね。学内対抗戦での貴方の戦いは、尊敬に値した」


「なら、対策は十分ってことか?」


「ええ」


 はじめは、自信たっぷりに微笑んだ。


「今日は一年坊が、琴谷先輩、引いては徹さんを超えます」


「大きく出たね」


「それじゃあ三十秒後に試合開始といきましょうか」


 師匠が伸びをしながら言う。


「二十五」


 槍を構える。


「十五」


 腰を落とす。


「五秒」


 後ろ足に力を込める。


「開始!」


 僕は地面を蹴ってはじめに肉薄する、はずだった。

 その時にははじめは既に後方に移動している。


 はじめの眼前だった位置を蹴り左方向へと移動する。

 最小の動きではじめはそれを追った。


 視界の外へ行けない?

 戸惑いが僕を支配する。


 しかし、すぐに腑に落ちた。

 なるほど、徹は彼と僕対策を十分にしていたということか。


「距離があれば、貴方の行動を最小限の動きで追える。と言っても」


 言いながら、はじめは位置をこまめに変えていく。


「それも一杯一杯ですが」


 はじめの横顔に汗が一筋こぼれ落ちた。


「いっくぞー」


 高速移動からの突進。

 はじめはそれを躱して、僕の腕に向かって木刀を振り下ろした。


 しかし、遅い。

 常人なら十分速い部類だが、ユニコーンを相手取るには心許ない。


 僕は勢い余ってはじめの後方にたたらを踏みながら着地すると、宙を飛んだ。


「五月雨・改!」


 空中に無数の光の槍が現れ、放たれる。

 その全てをはじめは叩き落とした。

 そして、突進してくる僕と武器をぶつけあう。

 真正面の正攻法で五月雨・改が破られるのは初めてだ。僕は目を丸くしていた。


 押し合いになった。

 力は相手の方が強い。徐々に押される。

 しかし、僕も学習していないわけではない。

 相手の力を受け流すと、しゃがみ込んで水面蹴りを見舞った。


 はじめは体勢を崩しながら、僕に向かって倒れ落ちてきた。

 その目つきは本当に鋭く、ぞっとするような決意の強さを感じられた。


「甘い」


 僕は跳躍すると、倒れ行く彼に槍を二本投じた。

 足と利き手。

 その二つを床に縫い付けられ、はじめは起き上がられなくなった。


 トドメを刺すためとはいえ倒れるのはやりすぎだった。

 成る程、これが実力差と言うものか。

 動きの無駄が見えてしまう。


 師匠が僕を跳躍しすぎだと戒めるのもそこらが原因か。


「参りました」


 はじめが心地よさげに微笑む。


「徹さんの幼馴染が貴方で良かった。貴方は徹さんの横を歩くに相応しい人だ」


「陽キャと、ゲームと映画が趣味の陰キャだよ。幼馴染だけどまったく違うんだ」


「いえ、この強さ。あなた方が極みのトリオと呼ばれるのも必然でしょう」


 なんだろう。

 なんか心が洗われるような清々しい奴だ。

 負けたと言うのに見苦しさがない。


 外見も相まって、麗しいとすら感じられる。


(これは……決まったかもな)


「優子、治療してあげてもらってもいい?」


「もちろんだよ。ブレイクスペル、そしてヒール」


 優しい光がはじめを包む。

 ブレイクスペルによって槍は消え、ヒールの癒やしが傷口を即座に塞いだ。


「凄いなあ。これが二年生かあ」


 はじめは感心したように言う。


「見事なもんだよ。僕の動きを初見で追えたのは君が初めてかもしれない」


「それで、どうします? 僕は生徒会と貴方の部に入れるでしょうか」


 僕は微笑んだ。


「合格だ。君レベルの人材を確保できて僕は嬉しい。これからよろしくな」


 はじめは本当に嬉しそうに微笑んだ。

 思わずどきりとする。

 最近、僕の周囲には美形が多すぎる。


「よろしくお願いします、琴谷先輩」


「いいですよね、師匠?」


 念を押すように師匠に言う。


「部長で生徒会長の君の判断だ。サポート役の私がとやかく言うことじゃあない」


「じゃあ、はじめ。もうちょっと手合わせしようか。何度か戦えば良いセンいきそうな気がするんだよな」


「ホントですか?」


(こと戦いになると尻尾を振る子犬みたいだ……)


「じゃあ私はアドバイスでもしようかな」


 そう言って、師匠は壇上に座る。優子はいつの間にかその横に移動していた。


「怪我したら私に言ってね。いつでも回復してあげるから」


 こうして、生徒会メンバーは揃った。

 しかし、それは足りない予算との戦いの始まりでもあった。



続く

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