徹の弟子
その日の放課後、呼び出されて部室に行くと、師匠が待ち構えていた。
もう夏休み前の期末考査の部活休止期間だ。呼ばれたということは何か事情があってのことだろう。
師匠は紙束をテーブルの上に置いた。
「やあ、部長。溜まってたお仕事の時間だ」
ふむ?
お仕事とはなんだろう、と思いつつ紙束に目を通す。
それは、履歴書のようなものだった。しかも大量の。
「入部希望届だ。気になる人材がいたらリストアップしてくれると助かる」
「これ全部ですか」
ざっと見たところ三十人分近くはある。
とりあえず今部に必要なのは前衛と支援。
その希望は既に一年に通達してある。
「実際に見てみるのが一番早いんだろうけどな。この人数になるとそれも難しくなる。まずは気になった人材から見ていこうという話だ」
「はあ、わかりました」
一枚一枚軽くめくっていってみる。
中には、師匠の書いた内申点まである。
成る程、これは良い資料だ。
そのうち僕は、一枚の資料で指を止めた。
「聖騎士のホルダーかあ」
徹も昔は聖騎士のホルダーだった。
攻防共に優れたカードだ。
名前を見ると、結城はじめとある。
写真を見ると、女性のように見える。
「結城君は優秀な剣士だよ。剣さばきも実家が剣術道場だったとかで見事なものだ」
「だった?」
「祖父の死後廃業したそうだよ。父は普通の会社員だ」
「なるほどなるほど」
これは結構良い人材なのではないか? そんな思いが、胸に湧いた。
「とりあえず、このはじめ君と会って見ますかね。力量を見てみたい」
「そうだね。実際に手合わせするのが一番早い。つっても君より強いことはないだろうから加減してあげるんだよ」
「心得てます」
一人だけでは少々不安なので他にも三人ほど選んでその日は活動を終えた。
帰って、一学期の授業内容を優子と恵と振り返りつつ勉強していく。
生徒会長が赤点では流石に話にならない。
次の日の昼休みの時間、おずおずと純子が話を持ってきた。
場所は、いつもの学校の中央の樹の下だ。
時間は昼休み。
僕は優子の弁当をつついていた。
「琴谷先輩。ちょっと頼まれごとをしたんですけど」
「頼まれごと?」
「私が庶務に任命されたのはもう知れ渡ってて、それで、書記になりたいって子がいて」
「へえ」
「それはちょっとした自信家ですね」
菓子パンを齧っている恵が感心したように言う。
「純子が推薦するってことは実力家なのか?」
「私は製造科なのでちょっとわかんないんだけど……その子」
純子はしばし、口の中で言葉を探すと、意を決したように言った。
「徹先輩の弟子を自称しているんですよね」
「徹の、弟子?」
僕は目を丸くする。
今は冒険に旅立った勇者のホルダー、徹。
幼馴染なのに、僕はその弟子の存在なんて聞いたこともなかった。
「一度、会ってみれば?」
優子が微笑んで言う。
「名前は?」
僕は純子に問う。
「結城、はじめ」
僕は衝撃を受けたが、それが引くと優しく微笑んだ。
「それなら、丁度今日の放課後会う予定だよ。そっか、徹の弟子か。それが本当なら、会うのがちょっと楽しみになったな」
「お願いします。言伝はしました」
純子は申し訳な下げに小さくなった。
案外そんな姿も見せることがあるのか。
僕は似合わぬ姿に滑稽になってちょっとだけ笑った。
徹の弟子。
これは今日の楽しみが増えたというものだ。
その日の弁当は元々美味しいのだが、いつもより少しばかり美味しく感じられた。
続く




