役員集め
翌日の昼休み、僕は学校の屋上に来ていた。
ここで毎日先輩は一人で昼ご飯を食べているはずだ。
集団が苦手な先輩の憩いの場所。それがこの屋上なのだ。
しかし、そこにいたのは使だった。
使は両手を後ろで組み、天を仰いでいる。
「どうしましたか」
こちらに背を向けたまま言う。
「蹴鞠先輩知らないか?」
「蹴鞠?」
「ここで弁当食ってる人、いなかった?」
「ああ」
使は振り返って、微笑んだ。
思わずどきりとした。
あまりにも綺麗過ぎる。
「それなら、移動してもらいました。体育倉庫に行くと言っていましたかね」
屋上に続き体育倉庫。あの人はこの学校の鍵をいくつ持っているのだろう。
半ば呆れながら移動する。
体育倉庫で、確かに先輩は弁当をつついていた。
「あれ、コトブキ君。どうしたのさ」
「あれ、じゃないですよ。用事があったら屋上に来いって言ってたのは先輩ですよ」
「それがあねえ、あの使って子に追い出されちゃってね」
そう言って先輩は表情をしかめる。
「あの子はどうも苦手だ」
「僕も得意ではないですけどね」
「で、一緒に弁当でも付き合ってくれるのかい?」
「いえ、今日は勧誘に来ました」
「勧誘?」
先輩は戸惑うような表情になる。
「これから始まる生徒会。その書記に、先輩を任命したくて。就職活動でも有利になると思うんですよね」
先輩は箸で白米を口に入れたところで硬直した。
ゆっくりと箸を下ろして弁当箱の上に置き、口の中の白米を咀嚼する。
「ごめん、断る」
そんな気はしていた。やはりバイトが忙しいのだろうか。
「私はあの使って子が苦手だ」
そこまで苦手なのか。予想外の言葉だった。
「そんな四六時中顔を合わせるわけじゃないですよ。たまに集まるだけだから、そんなに気にしなくていいんだけど」
「あの子、人間じゃないよね?」
図星を突かれて、僕は口籠る。
先輩はこんなに鋭い人物だっただろうか。
いつの間にか鍵が譲渡されていたこともあるし、使と先輩の間で、なにかあったのかもしれない。
「何者なの? あの子」
僕は答えられずに、しどろもどろになる。
「まあ」
そう言って、先輩は視線を弁当に落とす。
「そういうわけで、私はパスだ」
先輩は再び弁当を食べ始めた。
僕はしばしその場に立ち尽くしていたが、そのうち先輩に背を向けた。
「また、勧誘に来ます」
「気は変わらないよ。悪いけどね」
「それでも、来ます。先輩の代役を勤められるような人材が現れるまで」
そう言って、僕はその場を去った。
学校の中央の樹の下では、優子と恵と、純子とその友人達が食事をとっていた。
僕は歓迎され、優子に手作り弁当を手渡される。
女の園と言った感じだ。
僕の知らない店の話に花が咲き、僕は黙って弁当をつつく。
「で、コトブキ。先輩は勧誘できたの?」
優子が興味深げに僕を覗き込む。
「断られた。使との間になんかあったみたいだ」
「それは残念ですね。蹴鞠先輩習字上手いのに」
「そうなのか?」
「知らずに行ってたんですか?」
恵は呆れたような表情になる。
「誰かいい人材が見つかりますよ」
純子が無邪気に言う。
その微笑み顔を見て、僕はふと思った。
「純子。お前、庶務やるか?」
「いいですよ。琴谷先輩が言うなら」
即答だった。
「じゃ、決まりだ」
庶務は決まった。
残る席は、あと一つ。
「相変わらず仲いいわね」
優子の声は少し冷たかった。
続く




