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ライバル宣言

「三笠恵です。転校してきたばかりで右も左も分かりませんがよろしくお願いします」


 部員が全員揃った部室で、恵はそう言って頭を軽く下げた。

 番長が拍手をし、皆それにつられて拍手をする。


「三笠君は優秀な僧侶のホルダーでのう。これで優子君の負担も減ると思う」


「いやっほー」


「女子部員大歓迎!」


 騒ぐのは不良二人だ。

 部長の僕はただ、唖然としているしかない。


 今朝の遭遇から同じクラスへの転入。そして同じ部への入部。

 見えない糸が僕らを引き合っているかのようだ。


「コトブキがユニコーンのホルダーだから入部を決めたんですか?」


 優子が微笑んで、しかし聞き辛いことを訊く。

 恵は笑顔で対応した。


「発足して間もない部だそうだから私でも馴染めるかなって」


「なんでも頼ってくれよ恵ちゃん」


「俺達で出来ることならなんでもするよ」


 不良二人は調子が良いものである。


「じゃあ、本題だけど」


 僕は恐る恐る口を開く。


「学園祭の出し物を決めようと思う。学校の外からも人が来るんだよね? 先輩」


 成り行きを穏やかな表情で見守っていた先輩は、急に話題を振られて目を少し大きく見開いた。


「あ、ああ。親御さんとか近所の人とか結構来るよ」


「じゃあ、モンスター図鑑でも作ったらウケるんじゃないかな。異界の魔物って日常的にはあんまり遭遇しないし」


「もっといいアイディアがあります」


 恵が言う。


「私達の戦闘をそのまま録画して放送するんですよ。部活の実績も実力も示せて一石二鳥です」


「それはええのう」


 番長は唇の片端を持ち上げて言う。

 野心満々といった様子だ。


「本だととっつきづらいって人も映像ならすぐ頭に入ってくるな」


「古代種と聖獣のホルダーの戦闘なんて盛り上がると思う」


 不良二人が恵の案に乗る。


「じゃあ、それでいいかな」


 モンスター図鑑を作れるほど今の部での活動実績はない。ならば、映像で示すのが一番だ。


「決まりじゃのう。PV撮影の器具を用意して届け出は俺が出しとくわい。皆戦闘準備をして待っててくれ」


 そう言って、番長は部屋を出て行った。


「皆三笠には甘いのね」


 優子は僕だけに聞こえるような小声で、面白くなさ気にぽつりと言った。




+++




 僕達は異界にやって来ている。

 先頭を番長、二番手を先輩と緑、最後尾が荷持の笹丸とそんな順番で歩いている。

 僕と優子と恵は先輩と笹丸の間だ。


 不良二人曰く、ユニコーンのホルダーが最初からでしゃばったら絵的にあっさり終わりすぎて面白くないとのことだ。

 恵は手にカメラを持っている。


 敵が現れた。

 二足歩行のドラゴンだ。

 太い尻尾はそれだけで人一人潰せそうだ。


「皆、俺の影に隠れい!」


 そう言った番長の肌に鱗が走り、黄金の闘気を放ち始める。

 ドラゴンは火炎の息を吐いた。

 その全てを、番長の体は防いでいく。


 炎が止んだ瞬間、先輩と緑が前へと歩み出た。


「フェザーファントム!」


 始祖鳥のホルダーによる羽の一斉射撃。


「分身の術! 百撃手裏剣!」


 忍者のホルダーによる手裏剣の数々。


 それらを受けてドラゴンは血塗れになった。


「そこで俺っちの出番ってわけよ!」


 そう言ってゴリラのホルダーである笹丸が、荷台から斧を手にとって駆けていく。

 苦悶の顔で身を捩っていたドラゴンは、頭から真っ二つにされた。


「どんなもんだい」


 そう言って、斧を杖のようについて緑が言う。


「流石です!」


 恵がカメラを回しながら興奮したように言う。


「けど、ユニコーンのホルダーの実力も映しておきたいところですね」


「そうじゃのう。その方が絵的に映えるじゃろうの」


 そう言っていたところに、ドラゴンがさらに二匹駆けてきた。

 番長は再び皆の前で壁になろうとする。


 その肩を僕は軽く叩いた。

 番長は意図を察したらしく、後ろに下がった。


 ドラゴン二匹が火炎の息を吐く。

 僕はその時には既に二匹の頭上にあった。

 ドラゴン二匹は上空を向く。


 しかし、その時にはもう遅い。


「五月雨・改」


 僕は呟くように言う。

 光の槍が周囲に現れ、ドラゴン目掛けて投じられた。

 その時には、既に僕はドラゴン二匹の背後に天井を蹴って着地している。


 後は鋭い突きが二閃。

 頭を破壊された二匹のドラゴンは地響きを立てて地面に倒れ臥した。


「凄い早技! これがユニコーンのホルダー!」


「かなわんのう」


 番長が後頭部をかきながら言う。


「正直あいつと回復役一人いればなんとかなるもんな」


 と笹丸。


「あれで意外と筋肉もあるし」


 と緑。


 師匠との筋肉トレーニングの効果は如実に現れていた。

 僕は生徒の中でもいつの間にか運動神経が良い部類の人種に属していたのだ。


「これは面白い映像が取れました」


 そう言って、恵は微笑んだ。

 帰り道、一年組五人で歩く。

 途中で不良二人がゲームセンターに行くと道を別にし、残った僕と、優子と、恵が帰路につく。


「編集とかは任せておいてください。得意なんで」


「その、敬語やめなよ。同じ一年だよね」


「けど貴方は部長さんですし」


「部長でも一年は一年だよ。実質番長が部長みたいなもんだし」


「癖なんです。敬語で話すの」


「コトブキ、いいじゃない。そういう人もいるわ」


 と、優子が突き放すように言う。


「ユニコーンのホルダーだからって特別扱いしてくる人は沢山いるけど、貴女はコトブキのなんになりたいの?」


 優子が急に、貫くように言う。

 恵はきょとんとした後、暫し考えて、微笑んだ。


「ライバルです」


 思いもしない言葉に、僕は目を丸くした。

 恵は回れ右をすると、Y字路を右へと曲がっていった。


「私はここで別方向なので、また明日」


「またね」


 優子は微笑んで言う。


「変わった子ね」


 心なしか穏やかな口調だ。さっきの刺すような口調が嘘のようだ。


「なんか今日、機嫌がころころ変わってないか、優子」


「気のせいよ」


 その穏やかな表情は、いつもの優子のものだった。


「ライバル宣言だって。どうする? コトブキ」


 面白がるように言う。


「ライバルっつっても支援と前衛だしなあ。比べようがないんじゃないか?」


「そうよね。面白い子よね」


 優子はやはり上機嫌だ。

 なにが彼女の機嫌を左右しているか僕にはわからなかった。

 なんにせよ、学園祭の準備は終わった。


 後は楽しむだけだ。


「学園祭の当日だけどさ、コトブキ」


「なにさ」


「二人で回らない?」


「笹丸や緑は?」


「いいじゃない。幼馴染同士水入らずで」


「うーん、そうかなあ」


 優子は顔をしかめた。


「コトブキのそういう誰にでも優しいところ、私、嫌いだな」


 また不機嫌になっている。

 年頃の女の子はまったくわかりづらい。


「わかったよ。二人で回ろう」


 そう言うと、優子は僕の手を両手で握った。


「約束だよ」


(あれ? これって恋人みたいだな?)


 意識すると頬が熱くなってきた。

 のぼせるな、僕。脇役の僕にそんな都合のいい枠が回ってくるわけがない。

 けど、優子の手は柔らかく、誤解の方向への誘惑を進めていた。


「じゃあね、コトブキ。また明日」


 そう言って片手を振ると、優子も去っていった。


「ライバル、か」


 面倒臭いことにならなければ良いな、と僕は思う。

 案外、自信満々の主人公よりも、脇役のそういう発想の方がよく当たるものだ。

 師匠に話してみたいと思って夜の公園に行ってみたが、やはり彼女は先の宣言道理いなくなっていたのだった。

 一人、月夜を仰ぐ。


 寂しかった。


「なにしてるんですか?」


「わあ!」


 背後から声をかけられて、思わず大声を出す。

 そこには、恵が立っていた。


「なに、恵さん。どっからついて来てたの?」


「私も引越し先に慣れないとと思って、お散歩してて」


「で、コンビニでお菓子を買ってきたわけか」


 そう言って、恵の手に持った袋を見る。


「そんなとこです」


 そう言って、恵は微笑んだ。

 朝、昼、夕方、夜。

 まったく恵づくしな一日だなと思う。



続く

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