公約合戦、その後
「良い知らせと悪い知らせとどちらから聞きたいですか?」
ある日の昼下がり、純子がそんな風に悪戯っぽく言った。
製造科の教室からわざわざ僕の教室に来たということは、昨日の公約合戦の結果発表と言ったところだろう。
「じゃ、じゃあ、良い知らせから」
「コトブキ先輩の支持層が広がったようです」
「そうか!」
僕は思わず机をの角を両手で掴んで立ち上がった。
「しっかりしたビジョンを持っていることが中間層にウケたようです。また、悩んでる生徒が多い現れですね」
純子だけでなくその友人達が集めた情報だ。
馬鹿にはできない。
「じゃあ、悪い知らせってなんなんだよ」
純子は俯くと、僕から視線を逸して気まずげに言った。
「使の支持層も広がりました」
「へっ」
僕は思わずマヌケな声を上げた。
「思ったより明確で未来に向けたビジョンを持っているということで、それまで目立ちたがり屋の目の上のたんこぶと評価していた女子層が一部支持層に転換したんです。花で飾られた校舎というのもポイント高かったそうですね。それに、壇上に立つ彼女の凛々しさに惚れ直して評価を固めた層もいるようです」
僕は情けない表情になった。
「じゃあ……進展なしか」
「神のみぞ知るっていった感じじゃないですかね」
純子は苦笑すると、そう言って肩を竦めた。
夜の公園で、師匠にその話をすると、彼女は声を上げて笑った。
「ははは、それはせっかく優子ちゃんが応援演説したかいがないな」
「まったくです。申し訳ないやらなんやらで」
「けど、集団の前に立つのが苦手な君がベストを尽くした。君は君でやれるだけのことをやったと思うよ。後は天命を待つだけだ」
「生徒会長、かぁ」
この生徒会長選挙には、もう一つ賭けがある。
僕が勝てばジエンド退治に使の助力を得られる。
それは天界を魔界と現界の戦いに巻き込めるという大きな一歩だ。
「結構似合うと思うよ。君は弱い子の気持ちがわかる子だ。できる子っていうのは案外そういうものに疎い。人間、無意識のうちに自分がこう考えてこう感じているから他人もそうだろうと思い込んでしまう部分があるからな」
「師匠もありますか、そういうこと」
「言わなくてもわかってるだろうと思ってたら全然伝わってなかった、一から十まで説明せなあかんのか、なんていうことは往々にしてあったよ」
そう言って、師匠は缶コーヒーの中身を一口飲んだ。
「さて、こちらは手詰まりだな。ジエンドという敵、どうも今まで道理の訓練では追いつけそうにない。私も全力でレベルアップしてるつもりだが、まだ足りないようだ」
僕は思わずまた情けない顔になる。
「師匠がそれじゃ困ります」
「禁断の異界、と呼ばれる場所に三人で行ってみる気はあるかい?」
「三人?」
「私と、君と、優子ちゃんだ」
僕は悩んだ。
優子を危険に晒したくはない。
けど、ジエンドとの戦いに優子のスキルは必要不可欠。
現状のまま参戦させた方が危険だ。
「その、禁断の異界に活路はあると?」
「私はそう考えているよ。と言っても、ナンバースでも立ち入り禁止とされている場所だ。危険は避けられない。避けられないが、私の不死領域を駆使すれば全滅はないだろう」
師匠のフェニックスのカード、不死領域は全てのダメージを無効化する。
確かに、死にはしないのだ。
「考えておいてくれ」
師匠はそういうと、軽く僕の肩を叩いた。
僕らは、真綿で首を絞められるように追い詰められていた。
ジエンドという強敵が、いつ現界にやってくるかわからない。
その対策に、後手後手に回っているのが現状だった。
なんにせよ、時間は経っていく。
そして、生徒会選挙の開票日がやってきた。
続く




