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公約合戦

「それでは応援演説も終わったところで、公約の発表に移ってもらいましょう。まずは、天野使さん」


 生徒会長に促され、使がマイクの前に立った。


 余裕の表情で、息を吸って言葉を発する。

 まるで、彼女だけにスポットライトが当たっているかのようだった。

 それほど、彼女は絵になる。


 カリスマ性としか言いようのない威風で生徒達が静まる。

 ルッキズム全盛期の現在でこの作られたような外見の彼女に勝てるのだろうか。

 不安になる。


「私、天野使の公約は、映える校舎です」


 体育館の隅々まで届く澄んだ声。

 ざわめきが起こる。

 しかし、使が次の言葉を発すると途端に静まった。


「まずは花壇を作り、次に四季とりどりの花を位置に工夫して配置し、アーチや台を設置して花で彩ります」


 使の言う校舎を想像してみる。

 それは、とても綺麗で、神殿のようなイメージがあった。

 負けたか、とすら思った。


 大丈夫だ、優子の応援演説で生徒達はこちらに惹かれつつある、と自分を落ち着かせる。

 しかし、それすらひっくり返しそうな魅力が使の公約にはあった。


「そうやって彩られた校舎は後の生徒達に引き継がれ、彼等彼女等の生活を彩るでしょう。私達の代で新たな伝統を作るのです」


 使は微笑む。

 その美しさに、会場が息を飲んだのがわかった。


「天野使に清き一票お願いします」


 しん、と会場が静まる。

 次の瞬間には万雷の拍手が体育館に響いていた。


「素晴らしい公約でしたね」


 生徒会長の言葉で拍手が静まっていく。


「では、次、琴谷君」


 僕は呼ばれて舞台袖から出た。

 使はすました表情でこちらを見る。


 負けるわけにはいかない。

 この瞬間からの僕はチャレンジャーだ。


 優子が応援演説をしてくれて、緑が案をくれた。

 僕は一人じゃない。


 使がマイクの前から引く。

 それと入れ替わりに僕はマイクの前に立った。


 ざわめきが起こる。

 外見上のバフは僕にはない。

 素のままで当たって砕けるだけだ。


「僕の公約は二つ。まずは一つ目」


 これは、僕の学生生活の集大成のようなものだった。


「学校で、やり辛いとか、こうなったらいいのになとか、生き辛さを感じてはいませんか」


 ざわめきが起こる。

 気にせず、言葉を続ける。


「僕自身、長い間無力さと醜さに悩んでいました。僕の作る生徒会はそんな貴方に寄り添います」


 再度、ざわめき。


「目安箱を設置します」


 ざわめきが強まった。


「些細な悩みでも良い。投書されれば僕らも真剣に悩みます。生徒一人一人の傍に寄り添う。それが僕の作る生徒会です」


 使の顔からいつしか表情が消えていた。

 天界でのほほんとしていた使にはわかるまい。

 現世の生き辛さ。人間同士の軋轢。課されるノルマによる負荷。

 人間は進化し、不自然なストレス社会に組み込まれる仕組みを自ら作り上げた。


 神も天使も天を彩るだけで手を差し伸べてはくれない。

 それができるのは人だ。


「二つ目の公約」


 僕の声に体育館が静まる。

 第一の公約は十分効果があったようだ。


「購買にお菓子の自販機を設置するよう学校に働きかけます」


 歓声が巻き起こった。

 流石緑の案。生徒の心の掴み方はわかっている。


「プリンなどを予定しています」


 しめたものだと僕は追撃をかける。


「僕からは以上です」


 再び、万雷の拍手が体育館に響き渡った。

 拍手は二度起こった。

 最初は、カリスマ性の使に。

 二度目は庶民派な僕に。


 振り返ると使と目があった。

 以前の僕ならすぐに目を逸らしただろう。

 けど、僕はもう弱い僕ではない。


 徹に支えられてやっとのことで立っていた僕はもういない。

 僕はしっかりと使の目を見て、不敵に微笑んでみせた。


 使は一瞬不快気な表情をしたが、すぐにやるじゃないかという表情になる。


 拍手の中、僕と使は視線で火花を散らしてその場に立っていた。

 どちらが生徒会長になるのか。

 天界をジエンドとの戦いに巻き込むことはできるのか。

 まだ結果はわからない。



続く


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