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混ざり者

「で、なんの用?」


 僕は、生徒会長選挙の対立候補である使に屋上に呼び出されていた。


「いえ、混ざり者の貴方とは一度話してみたいと思っていたので」


 思いもしない単語に僕は戸惑う。

 使はフェンスの向こう側を見てこちらに背を向けているので表情は見えない。

 それにしても、先輩の他にも屋上の鍵を持っている人間がいるとは知らなかった。


「混ざり者?」


「魔界と人間界の混ざり者。それが貴方です。薄々感づいているのではありませんか?」


「僕は人間の母さんと父さんの子供だよ」


「遺伝子上は、ですけどね」


 使は滑稽そうに言う。

 僕は苛立った。

 それは、僕にとって非常にデリケートな話題だ。

 安易に触れられたくない。


「何が言いたい」


「貴方は四天王クラスの魔物の因子を受け継いでいる。その貴方が人間界につくのか、魔界につくのか。天界では非常に不安視されている。ま、もっとも」


 そこで、使は一つ言葉を切った。


「ナンバース? でしたっけ? も、それは同じようでしたけどね」


 魔物の因子?

 この娘は何を言っているのだろう。

 まったくわからない。


 わかりたくない。

 確かに、僕は魔物化する。

 けど、自分を人間だと信じていたい。


「僕は人間だ。弱い人を守る壁だ。それは揺るがない。それより、天界というものがあるのならば今まで何をやっていたんだ? 魔界からの現界への侵攻になんとも思っていなかったのか?」


「魔界も人間界も同じものだからですよ。元は一つの世界です」


 とんでもないことを、この絶世の美少女はサラリと言った。


「昔、三つの世界なんてものはなかった。始まりに神が生まれ、天界を作った。しかしある日、神の中に邪な物が宿った。それを外界へと捨てて生まれたのが人間界と魔界。一つの塊が、二つの世界を作った。だから、魔物も人間も似たような性質を持っている」


 僕は黙り込む。

 壮大過ぎてピンとこない話だ。


「邪な部分の強いものは魔界へと沈み、魔力の弱い者は地上に引っかかった。それらが進化した末が貴方達」


「つまり、天界は手を貸してはくれないってことか。ジエンド退治にも」


「状況によって話は違ってきますね。ここ数百年で魔王という強大な力の持ち主が生まれた。魔王の目的は、神との一体化です」


 僕は呆気に取られた。

 現界にいくつも作られた異界。その目的が現界になく、天界にあったとは。


「人間界と魔界の争いなら天界は不干渉だったでしょう。二つは元を同じとするものですから。しかし、天界に近づかれ過ぎると困る」


「困るなら協力してくれよ」


「まだ不要でしょう」


 使は飄々と言ってのけた。


「それが神様の判断ってことか?」


「神の御心は誰にも推し測れません。ただ、マアクが二度目の人間界侵入間近まで行き、人間界に住まう混ざり者、貴方という存在が明らかになった。天使長は、それで動いた形です」


「教えてくれ。ジエンドはいつ現界に辿り着く。その時、あんたらは何もしてくれないのか」


「わかりません。しません」


 淡々とした口調で使は言う。


「例え人間界が滅ぼされようとも、天界は動かないでしょうね」


「力がないのか?」


「ふふ、ジエンドクラスの力量の持ち主ならいくらかいますけどね」


「それなら!」


「何度も言ったはずです。これは元を一つとする世界の話だと」


 僕は押し黙る。

 つまり、自分達で解決しろということか。


「貴方は本当に最後まで人間界の味方なのでしょうか、混ざり者。それとも……」


 使は振り向く。

 無感情な表情をしていた。

 まるで、虫けらでも見るかのような。


「ここで、始末しておくべきかしら」


 僕は息を呑んだ。

 ピリピリとした殺気を感じる。

 ジエンド程ではないが、この娘も、相当やる。


 僕は身構える。

 使は表情を緩めた。


「冗談です」


 殺気が消える。

 僕は気が抜けて、思わずその場に座り込みそうになった。


「四天王を三体撃破したことは天界も評価しています。生徒会選挙、楽しみにしてますよ。人間界のヒーローさん」


 そう言うと、使は歩いていく。


「一つ、僕と賭けをしないか」


「なんでしょう?」


 使は僕の横で足を止める。


「僕が勝ったら、ジエンド退治に協力しては貰えないだろうか」


 使はしばし考えこんだ。

 しかし、返答までそうかからなかった。


「いいでしょう。しかし、人間は元は邪の者。単純なものです。我欲と外見であっさりと私の味方につくんだから」


 滑稽そうに使は笑う。


「では、楽しみにしてますよ。水曜日の公約発表」


 そう言うと、今度こそ使は去っていった。

 情報過多を処理しきれずに、僕はその場に胡座をかく。


 そして、決意した。


(これは、ますます負けられないな)


 ただの学生生活の一貫だった生徒会長選挙。

 それが、今後の現界の行方を左右する一戦になろうとしていた。



続く

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