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師弟対決

 夜の公園に行くと、コーヒー缶片手に座っている師匠が軽く手を上げた。

 僕は軽く会釈する。

 今日も特訓の時間だ。


「親に出生の秘密は聞けたかい?」


 僕は目を見開く。

 まったく、この師匠には隠しごとができないらしい。


 色々な言葉が喉元まで込み上がってきたが、固まりになってつっかえた。

 父は色々な苦労をして母をナンバースから守った。

 その苦労を台無しにする可能性がある。


 師匠が口が軽いとは思わないが、父のように人の記憶に強制介入できる術者がいないとは限らない。


「まあ、いいさ。さっき徹君が挨拶に来てたよ。修行の旅だってね」


「まあ、アイツらしいと思います」


「そうだね。少しはこちらを頼ってくれても良いと思うんだが。まあ、なんでもできる子って中々そういうのができないんだよなあ」


 アークスのダイゴを連れて行くことは喋っていないのだろうか。

 流石に、アークスと敵対関係にあるナンバースの師匠に語るのは躊躇われたのかもしれない。


「パワーアップして帰ってくると思うよ。あの子は器用だ。目標がしっかりとしているなら尚更問題はない。して」


「はい」


 師匠の瞳が興味深げに僕を見つけた。


「そのジエンドとかいう敵。そこまで絶望的だったか」


「一回死んでもやり直せる徹が即時撤退の判断をしたほどですからね。僕らでは絶望的だった」


 思い返すだけでも背筋が寒くなる。

 それほど、あの気配は濃厚だった。

 あれは、死の気配だ。


 師匠の視線が、空に飛んだ。


「私でも無理かな」


「言い辛いですが、無理でしょう。あの時のパーティーなら師匠相手ならなんとかなるって気がする。けど、ジエンドに傷をつけるイメージは沸かなかった」


「むむむ、そーかぁ。私やコースケレベルでも無理かあ」


 師匠は腕を組んで、考えこんだ。


「で、君の出生の秘密だが。なんか掴んだんだろ?」


「わかります?」


「徹君が、君に出生の秘密を聞くように促しておいたと言っていたからな。そこからの黙り込みよう。それはわかるさ」


「それじゃ、これも言い辛いですけど……」


 僕の脳裏に、ふと上手い嘘が思い浮かんだ。


「母が二年間、神隠しにあっていたそうです」


「ふむ。魔界にいたと?」


「わかります?」


「公式には二千六年に初のゲートを観測したことになっているが、それは実は隠しきれなくなった年だ。ナンバースはそれより前から活動している」


「アークスの尻拭い、ですか」


「そゆこと。じゃあ君は魔界の血を引いて……?」


「それは父に否定をされました。遺伝子検査はしたと」


「それは私も確認を取った。しかしおかしなことなんだよね。血が混じってないのに魔界の食べ物を食べてただけであんな魔物化するだろうか」


 確かに、それはおかしな話なのだ。

 この話、裏にもう一つ二つ隠しだねがあるのかもしれない。


「まあ、君に聞いても限界があるな」


「すいません」


 沈黙が漂った。

 嘘をついた手前、責められているようで少し居心地が悪い。


「少し勝負してみるか」


 僕は安堵した。楽しい訓練の始まりだ。

 しかし、いつも昼行灯じみた笑顔を浮かべている師匠が、今は怖い顔だ。

 僕は気を引き締めた。


「勝負、ですか」


「いつもの訓練じゃない。本気の勝負だ。私は君を殺しにかかる。君は本気で抵抗する。魔物化した君はどこまで強いのか。ちょっと試したい」


 僕は息を呑んだ。

 師匠は立ち上がると、カードホールドにエルフのカードを挿し込んだ。

 師匠の髪が緑になり、耳が尖り、手に槍が現れる。

 それを構えると、刺すような殺気が僕を射抜いた。


 僕の指先が僅かに紫化する。

 実感としてわかる。魔界の空気を吸って以来、タガが外れたように魔物化しやすくなっている。

 それを制御するかのように、僕はユニコーンのカードをカードホールドに挿した。

 額に生えた角に触れ、それを槍と化す。


 生温い風が吹き、育った雑草が擦れあって音を立てる。

 初めての、本気の師弟対決が始まろうとしていた。



続く

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