表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

163/274

消えた君に

「ナンバースとはなんだ、とは訊かないんだな」


 父は淡々とした口調で言う。

 沈黙が場を支配した。

 ナンバースは秘密裏の治安維持組織。

 知っている方がおかしいのだ。


 今更取り繕う言葉も見つからず、僕は口籠る。


「まあ、いい。俺は幻術士のホルダーとしてそこの上層部に一枚噛んでいた」


「幻術士のホルダー?」


 初めて聞くカードだ。


「人の視覚に影響を与えるカードだ。幻術を見せたりすることができる。そんな中で、俺に与えられたユニークスキルは記憶操作だった。上層部はそれを重宝し、俺は上層部に一枚噛むことになった」


「父さんが、ナンバースの上層部に……?」


「色々と見たよ。抜ける時に記録はほとんど処理したとは思うが、俺の知る秘密の量を知られれば明日にでも暗殺対象となるだろう」


 僕は息を呑んだ。

 なんなんだこれは。

 父はさっきまで一般人だったはずだ。


 それが、今この瞬間から、貴重な情報源となっている。


「話を戻そう。お前の母さんと俺は幼馴染だった。お前の母さんは黄昏の聖女と呼ばれるユニークスキルに目覚め、空間の断裂も効かないことから対アークス戦で重宝されていた。彼女もまた、上層部に呼ばれることが増えた。そんな中で、俺と母さんは再会した。時々一緒に外食する。するのは仕事の話ばかり。そんな程度の関係だった」


「それがどうして夫婦に?」


 父は苦笑した。


「まあ焦るな。話もお前の出生の秘密もここからだ」


 僕は黙り込んだ。

 今は父が語るに任せたほうが良いだろう。


「さて、ある日のことだ。ゲートのない異界が突如この世界に出現した。それは、大量の魔物を吐き出して、アークスもナンバースも共同戦線を張り対策に当たった。母さんも、選ばれた探索員の一人。俺は外でトランシーバーを使って現場指揮に当たっていた」


 今日と同じだ。

 僕は僅かに興奮を覚えていた。

 僕と同じ経験を、僕の両親も味わっているとは。


「雑魚は大体処理できたが、ミラージュという強敵が前に立ちはだかった。そこで戦線は硬直した。異界のボスにも辿り着けず、負傷者は増える一方だった」


 そいつは今日僕が倒しました。とは流石に言えない。


「仕方がないので、俺は自らも戦線に立つ決断をした。そして、それ以上に母さんの判断は迅速だった」


「母さんの?」


「母さんはミラージュに一瞬でいいから幻影を見せろと言った。俺はその通りにした。その隙に、母さんはミラージュの横を通り過ぎたのだ」


 息を呑んだ。

 ミラージュがいるということは、その先にはマアクがいるはずだ。

 まさか、母は一人でマアクに挑んだのだろうか?


「そして、突如異界は消えた。俺は悟った。母さんは異界の中心に行って異界そのものを破壊したのだと。俺は必死に母さんを探した」


 嫌な予感がした。

 マアクを倒し、異界が消えた後、僕達がどこにいたかを思い出したのだ。


「母さんは……魔界に?」


 父は目を逸らした。


「そうなのだろう。母さんはどこを探してもいなかった。トランシーバーの反応もなくなった」


 母が、魔界に?

 帰るすべも持たずに?

 思いもしない両親の過去に僕は息を飲むばかりだった。


「母さんは消えた。そして、ついに何年も現れなかった。あの時ほど絶望したことはない。あの日、気づいたんだ」


 父は目を伏せる。


「俺は、母さんが好きだったのだと」


「父さん……」


 優子が手の届かない所に行ってしまったらどう思うだろう。

 それを思うと、父の心情は思うにあまりあった。




続く


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ