表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

161/274

それぞれのその後

 そして、僕らは人間世界へと戻った。


「……貫禄負け、だな」


 徹が渋い表情で言う。


「あれが魔王か。あのクラスの魔物がこっちの世界に来れないのがせめてもの救いだな」


「いや……違う」


 僕は苦い顔で言っていた。

 徹は訝しげな表情になる。


「違う、と言うと?」


「ジエンドは最後の四天王だ」


 三人は絶句した。


「魔王は、あれよりも強い。それも、あれを従えるレベルで」


「……絶望的だぜ」


 徹は天を仰いだ。

 沈黙が場を支配した。


 接近しただけでわかるぐらいの力量差。

 それが、僕らを意気消沈させていた。


「だが、次はそうはいかん」


 何か考えがあるのか、徹はそう断言した。


「そうだな。次までにどうにかしないといけない」


 僕も同意していた。

 魔界へ行く機会が今後何度あるかわからない。


 けれども、いずれはぶつかる敵だ。

 倒さなければならない。


「俺は旅に出るよ」


 徹は、呟くように言った。


「徹?」


 俯いていた優子は、不安げに顔を上げる。


「そんな顔すんな。レベルアップして帰ってくるよ」


「単位は大丈夫なのかよ」


「一年の時もなんとかなったからどうにかなるだろ。学校に通ってるよりは実戦を重ねたほうがレベルアップは速い」


「俺も、連れてってくれ」


 ダイゴの思いもしない一言に、僕は驚いた。

 ダイゴはアークスだ。それが、ナンバースの徹に追従するとは。


「俺も、強くなりたい。けど、強くなり方がわからない」


 徹は潮風斬鉄を肩に担ぎ、気楽な調子で頷いた。


「いいぜ」


 ダイゴの表情が明るくなる。


「で、コトブキ。お前はどうする?」


 徹は軽い調子で僕を見た。


「僕は……」



+++



 帰り道、優子と一緒に歩く。

 二人の間に会話はない。


 目の前にある現実。それが重圧となって僕らに伸し掛かっていた。


「良かったの? 行かなくて」


「僕はこの町を守る。この町の異界発生率は異常だと師匠は言っていた。いつ、魔界への穴が開くかわからない」


「……私も協力するけど、守りきれる、のかなあ」


「守りきらないといけないだろ。ジエンドって奴とも、優子のデフダドがあれば良い勝負ができると思っているよ」


 強がりだ。

 スピードだけでどうにかなる相手とは思えなかった。


「元に戻っちゃったね」


 優子が言う。

 僕の体は、悪魔のような外見から、人間のものへと戻っていた。

 人間界の空気に馴染むかのように。


「これも、片付けないといけない案件だなあ」


 僕は徹の誘いを断っていた。

 優子がこんなことを言い出したからだ。


「コトブキが行くなら、私も……」


 それまでの日常や親よりも僕を優先してくれる。そんな一言に、僕は感動すらした。

 だからこそ、優子を巻き込んではいけないと思ったのだ。


 師匠との訓練でもレベルアップは望める。

 僕は僕の道を、徹は徹の道を、それぞれ進むのだと決定づけた瞬間だった。


 徹は小鈴に挨拶をし、極秘裏に出発するそうだ。

 徹の親は心配するだろう。

 しかし、勇者の親になるのはそういうことなのかもしれない。


「とりあえず師匠に報告かな。魔界に行ってたなんて言ったらひっくり返るかもね」


「驚くと思うよ。私達が魔界に行った初めての人類なんだからね」


「教科書に名前が残っちゃうな」


 冗談めかして言う。


「……いつかあのクラスの魔物も地上に現れるのかしら」


「その時は、僕らが止めなければならない。何かを犠牲にしても」


 自分自身に言い聞かせるように、僕は言っていた。


「町を守るって徹に見栄きっちゃったしな」


「そうだね。きっとコトブキならできるって、そう思うよ」


「どこ行ってたんですかあ!」


 憤慨するような声が背後から飛んできた。

 恵が駆け寄ってくる。


「部室で待ってたんですよ!」


「あー、そういや今日は休部にしようって恵さんに言ってなかったな」


「通りで純子さんも来ないわけです。一人でこんな時間まで待ってましたよ。私は貴方の護衛だってことを忘れないでほしい」


「……ついてこない方が幸せだったかもよ?」


 僕の言葉に、恵みは目をしぱたかせた。

 そして、僕は家の前についた。


 今日こそは訊かなければならない。僕の出生の秘密を。


「私も一緒に行こうか?」


 優子が不安げに言う。


「大丈夫。僕一人でなんとかなる」


 そう言って、僕は優子の頭を撫でた。


「本当にどうしたんです? なんか、数時間で数年分歳を取ったように思えます」


 恵の感想も仕方ないだろう。

 ジエンドとの遭遇の前後で僕らの価値観は激しく一変していた。


「さて、行くか。じゃあ、優子。また明日」


 そう言うと、僕は家へ向かって一歩を踏み出した。

 悪魔のような外見になる僕。

 両親は、実の親ではないのではないかという気がしていた。




続く

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ