魔の本流
「ふむ、この人間中々ポテンシャルが高い。しかも勇者とは好都合だ」
ダイゴの体を乗っ取ったマアクは、嬉しげにそう語った。
カードホールドに挿されたダイゴの勇者のカードが混沌種の勇者のカードへと変貌を遂げる。
「さて、どうする? お前らは仲間を殺せるかな?」
そう言って、マアクは駆け寄ってきた。
徹が前に立って、その光剣を光剣で受け止める。
剣が幾重にもぶつかり合い光の軌跡を描く。
「お前も人間の中ではかなり鍛えられた存在だ。だが、この人間のユニークスキル気力転換は」
徹の太腿に光の剣が突き刺さった。
「気力を技術や力に転換できる。実に好都合だ」
徹は一旦数歩引くと、潮風斬鉄を抜いた。
「手加減は……できない」
徹は苦々しげに言った。
「倒すぞ、コトブキ」
僕は迷っていた。
手加減をして倒せる相手ではない。
しかしそれは、ダイゴを殺すということだ。
「ホーリークロスを使ったな。人間」
そう言って、マアクは宙空に六芒星を描く。
「クロスとはこう使うのだ」
ダーククロス。混沌種の勇者の必殺技。
それは、まるで流星群のように形を変えて僕らに襲い掛かった。
「プロテクション!」
徹が叫ぶと、六角形を連ねたようなバリアが展開される。
しかし、ダーククロスはそれを貫いた。
破壊音がし、僕は青ざめた。
カードホールドの繋ぎ目にモロに被弾した。
僕のユニコーンのカードは使えなくなってしまったのだ。
徹も腹部を貫かれたらしく、腹を抑えている。
そして、優子。
両太腿と右腕を貫かれたらしい。
ユニークスキルオートリジェネがあるとはいえ、痛みは避けれない。
(どうする? どうする?)
突破口が見えない。
戦局は不利な方向へと進むばかりだ。
マアクはさらに徹への攻撃を再開するかと思われた。
しかし、その横を通り過ぎると、優子に斬りかかった。
「まずは鬱陶しいヒーラーから叩かせてもらう!」
その時、僕の感情は沸騰した水のようになった。
その瞬間、体が軽くなる。
僕は一足飛びで両者の間に割り込むと、光剣を手で受け止めた。
「なに……?」
マアクが戸惑いの声を上げる。
それもそうだ。今の速度は一般人のそれではなかった。
僕の頭部には、カードホールドを使っていないにも関わらず、角が生えていた。
腕は筋肉で膨れ上がり、視点もいつもより高い位置にあるような気がする。
しかし、今はそれより肝心なことがある。
「優子には……手を出させない!」
そう、優子を守ることだ。
僕が力を込めると、光剣はバラバラに砕け散った。
悲しいことに、それもまた人類の及びいる腕力ではなかった。
続く




