ミラージュ
僕達は少し開けた場所に辿り着いた。
次の鳥居までは三十メートルほどの距離があり、その下には白銀の甲冑が赤い剣を杖のようについて俯いている。
「早速嗅ぎつけたか、人間」
空洞の中に響いたような声。
僕は槍を、ダイゴは光剣を構えた。
「お前がこの異界のボスか?」
僕の問いに、甲冑は前を向いた。
「私はミラージュ。四天王マアク様の側近にして最強の剣」
四天王に次ぐ実力の持ち主ということか。
僕は息を呑んだ。
「気をつけろ、ダイゴ。相手は四天王に次ぐ実力者らしい」
「誰が相手だろうと俺はやるだけだ」
ダイゴの気力が高まってくるのを感じる。
ユニークスキル気力変換。
気力が高まるに連れてダイゴの強さは増す。
告げて良かった。
僕は苦笑した。
「引き返すなら今だぞ、人間。尤も、この実験が成功すれば、地上に平穏の地はなくなるがな」
そう言って、ミラージュは地面から剣の切っ先を引き抜き、僕らを指した。
「行くぞ、ダイゴ」
「ああ」
僕は一足飛びで三十メートルの距離を無にするつもりで特攻した。
しかし、ミラージュは同速で襲いかかってきた。
槍と赤い剣が幾重にもぶつかり火花を散らす。
「なに?」
「なんだと?」
その言葉は互いの口からこぼれ出た。
互いの速度に驚嘆する言葉。
直感でわかる。
こいつは自分と同等以上の速度の相手と戦ったことがない。
槍と赤い剣はさらにぶつかり続ける。
「ユニコーン、避けろ!」
ダイゴが言うと同時に、背後から眩い光が放たれた。
ホーリークロス。
人間種のカードの最強火力の攻撃。
僕は慌てて回避する。
ミラージュは光の本流に飲み込まれた。
そして、光が消えた時。
ミラージュは無傷でその場に立っていた。
展開されている六角形を連ねたようなバリア。それが彼を守ったのだろう。
「プロテクション……だと?」
ダイゴが呆然とした口調で言う。
プロテクション。勇者のみに許される人間種のカードの最硬度のバリア。
「貴様、邪魔だな」
ミラージュは呟くと、言葉を続けた。
「アクセルツー」
そう呟いた瞬間、ミラージュはダイゴの背後にいた。
「しまっ……」
言い切ることもなくダイゴの背にミラージュの剣が突き刺さろうとした。
その上空から、アクセルフォーを使って先回りしていた僕は槍を投げ飛ばした。
「一投閃華金剛突!」
槍が光となってミラージュの脳天から足元までを貫く。
そして、ミラージュは物言わぬ遺体となって倒れた。
異界は、消えてはいない。
「お前の背後は僕が守ろう」
プロテクションは前面にしか展開できない。
背後からは無防備なのだ。
僕は降り立ち、ダイゴにそう告げる。
「異界が消えない」
ダイゴの声には焦燥が混じっている。
そう。
異界が消えていないということは、今の相手よりも強い相手がボスである可能性があるわけだ。
「……ここは、四天王の異界なのかもしれない」
僕の言葉に、ダイゴの表情が強張った。
「退くか?」
「いや」
ダイゴは暫しの葛藤の後、言った。
「放置しておけば俺達が作った異界のようにいくら被害者が出るかわからない。俺は、進む」
成長したじゃないか。
僕はそう言いかけて、反発を予想してやめた。
「少し待とう。徹と優子が追いついてくるはずだ」
「良いだろう。しかし、五分経てば俺は行くぞ」
「ボスの配下相手に死にかけた癖に……」
「なんか言ったか?」
「なんにも」
僕はとぼけた調子で言うと、空を見上げた。
やはりそこには黒い闇が広がっているのだった。
続く




