後悔
「で、コトブキ抜きで話したいってことはなに?」
優子は怪訝そうに徹に問う。
学校の下校路だ。
「この前の大会のことだ」
優子の表情に少し影がさした。
「あの変異が起きた時、勇者のカードは俺に警鐘を鳴らしていた」
優子は俯く。その表情は見えない。
「聖女のカードも同じようにお前に警告を鳴らしたんじゃないか? 二つは、聖属性のカードだ。自然と、反応する」
そこで、徹は一旦言葉を切る。
そして言い辛いと思いつつも言葉を続けた。
「巨大な魔の気配に」
優子は黙り込む。
その沈黙は、肯定しているようなものだ。
「コトブキにはまだ俺達が知らない部分があるのかもしれない。俺達が幼馴染になる以前に」
「聖女のカードも、確かに反応したよ。けど、一瞬だった」
「あの変異も一瞬だしな。けど見ただろ? 筋肉で膨張したコトブキの姿を」
優子は再び沈黙する。
「俺達は……いつかコトブキと敵対してしまうのかもしれない」
「ないよ!」
ほぼ反射的に優子は言う。
「それはない! コトブキがなんだろうと私はコトブキの傍にいる! だから私はあの時……」
「わかってるよ」
徹は苦笑する。
「俺もコトブキの味方だ」
優子は安堵したように笑顔をみせた。
「あいつが暴走しない限りはな」
「大丈夫だよ。コトブキだよ? 気弱で善の象徴みたいな人だ」
徹は苦笑する。
「優子はなんでも良く解釈するよな。だから俺も許された。正直、気が抜けるよ」
「覚悟は既に決めている。私はコトブキと一緒だ」
「そうだな。世界中を敵にしても守ろう。コトブキを」
徹は拳を突き出す。優子はその拳に拳をぶつけた。
「それじゃ、行くか。そろそろコトブキが待ちぼうけしている頃だ」
「うん。誤解されても困るよね。電話で言ってくれれば良かったのに」
「ナンバースの盗聴が怖くてな」
「なるほどねえ」
どちらともなく走り始める。
コトブキのもとへ。
+++
「ホーリークロス!」
ダイゴの放った光の波が敵を飲み込む。
そして、消滅させた。
強い。
対多では僕のユニコーンのカードはどうしても一歩遅れをとる。
しかし、ダイゴと僕が戦えば僕が勝つ。
タイマン向けの能力ということだろう。
「流石は勇者のホルダー。火力が半端ないな」
僕が褒めるのを無視してダイゴは前を歩き始める。
正直、やり辛い。
「省吾のこと、今はどう思ってる?」
僕は聞き辛いことを訊いていた。
ダイゴの中の善を信じたかった。
「後悔はしていない。今でもあいつが憎い」
ダイゴはぴたりと立ち止まって、ハッキリと言った。
「けど、俺に奴を殺す権利はなかったと今は思っている」
僕は微笑んだ。
「成長じゃないか。憎悪の沼から抜け出たんだな」
「えっらそうに」
「僕のが一年先輩だ。ちょっとは先輩面させてくれ」
ダイゴは仏頂面で僕を見る。
「あんたにはわからないよ。周囲から孤立させられた人間の辛さなんて」
「僕はいじめられっ子だった」
ダイゴは黙り込む。
「恩師に会ってユニコーンのカードを貰えなければ、今もそうだったかもしれない。出会いは僕を変えた。出会いは天の贈り物だ」
「なら……」
ダイゴはしばし戸惑うように口ごもる。
そして、数秒の後口を開いた。
「俺に説教してくれるあんたとの出会いも贈り物なのかもな」
そう言うとダイゴは前を向いて、再び歩き始めた。
僕は苦笑して後に続く。
「感じるか? 強大な魔の気配」
さっきから、鳥居が続く景色が続いているが、魔の気配は徐々に濃くなっている。
「感じる。勇者のカードがビンビン反応してる」
「二人で勝つぞ。急造コンビだけどな」
「あんたとあんたのとこの勇者はいいコンビネーションだったな」
「練習したからな。いざとなったらお前にもかけるぞ。アクセルフォー」
「ツーからにしてくれ。あんまり速くなるとコントロールに戸惑う」
なんだかんだ言いつつ、距離が近づきつつある僕らだった。
不憫な人生を歩んで来たダイゴ。彼はアークスという敵対組織にいるが、個人的には力になれればと僕は思っているようだった。
「勝つぞ」
僕は繰り返し言う。
気配の強さに不吉さを感じながら。
「さっき聞いたよ」
ダイゴは苦笑交じりに言った。
続く




