出生の秘密
「これでダイゴという人間は死んだ」
バンチョーはいとも容易くそう言った。
「新しい戸籍の名字を考えといてくれ」
「わかった」
ダイゴはこうも容易く人一人の戸籍を死亡扱いにするアークスの力に戸惑いすら覚えた。
「なんか聞きたそうだのう」
バンチョーは楽しげに言う。
「いや、それは……」
「アークスの力を怖いと考えるのは当然」
見透かすような言葉だった。
「後は深入りせんことだ」
そう言ってバンチョーは話を締めくくった。
殺人犯ダイゴは死んだことになった。
しかし、名前が変わったとてダイゴはダイゴだ。
元親友を手にかけた時の感触は今も手に残っている。
それを思い出して、ダイゴは少し吐きたいような気分になった。
サングラスをかけ、マスクをし、外の道を歩く。
幼馴染と駆け回った道。
どうして自分達は道を間違えてしまったのかと思う。
その時、ダイゴは戸惑って立ち止まった。
長い階段の上に赤い鳥居。
見たことのない建築物があった。
「あれ、こんな建物あったっけ」
思わず、独りごちる。
鳥居は真新しく、色も鮮やかだ。
ダイゴは暫し戸惑ったが、階段を登り初めた。
+++
「一等賞~」
僕はそう言って、勢い良く進んでいた体に足でブレーキをかけた。
師匠との訓練に学校での体育の授業。
持久力だけでなく瞬発力も中々だ。
優子と、この突発的な中距離走をしようと提案した徹はまだ来ない。
そして、ふと気がつく。
徹の奴、優子と二人で話したくてこの話をもちだしたのではあるまいな。
独占欲が疼くわけではない。
ただ、僕に秘密にしなければならない話とはなんだろう。
杞憂ならいいのだが。
そう思いつつ歩いていると、不可思議な建築物を発見した。
不可思議と言っても、外観は神社の鳥居と外観だ。
鳥居の色は血のような赤。
「あれ、こんな建物あったっけ」
記憶にない。
この道を通るのも久々だが、ちょっと前に歩いた時にこんな建築物はなかったように思う。
何故か、懐かしい香りがした。
鳥居の方から匂ってくる。
僕は吸い込まれるように、階段を登り初めた。
朝、母に自分は本当に両親の子供なんだろうかと訊ねてみた。
父と僕の顔は本当に似ていない。
「死んだおじいちゃんに生き写しだけどねえ」
母は戸惑いながらそう言った。
けど、声のトーンから少し引け目を感じているのがわかって、それは嘘だと思った。
僕には出生の秘密がある。それも、魔の絡む。
頭痛の種だった。
気がつくと階段を登りきり、振り返る。
見晴らしの良い景色になると思いきや、そこは一面の闇だった。
不安を覚え、僕はユニコーンのカードをカードホールドに挿し込んだ。
続く




