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新しい友達

「生きて帰れたぁ……」


 森の中に出て、優子が安堵したように言う。


「問題は山積みじゃぞ。教師への報告書をどうしたものかのう」


 番長が顎に手を当てて言う。

 確かに、と思ったのか優子が不味い物でも飲み込んだような表情になる。


「そのままコトブキ君の能力を記すのはヤバイんじゃない?」


 先輩が恐る恐る言う。


「そうだよね。コトブキの能力をまんま書いたら探索員にスカウトされるかもしくは……」


 言わんとしていることはわかった。

 ユニコーンのカードの没収が起きかねない。


「適当に誤魔化すかのう」


「そうだね、それが一番だ」


 先輩は苦笑交じりに言う。


「しかしあの異界を暴走させた男。それについては記さねばならんじゃろうのう」


「……そうだね。あれは放置できない。犠牲者が一杯出ちゃうよ。後は任せる」


 先輩はそう言うと、口を噤んでそっぽを向いた。


「気楽に言ってくれるのう。おい、笹丸、緑」


「はい、番長」


「なんでしょう」


「書類仕事はお前らに任せた」


「ええ!?」


 二人の声がハモる。


「あのー……それなら」


 そう言って僕は挙手する。


「僕がやるけど」


「本当か?」


「助かるぜ」


「誤魔化すのなら慣れてるからね」


「自慢にもならないね」


 優子が滑稽そうに言う。


「生きて吸う空気がこれほど美味いとは思いもせんだのう」


 そう言って番長は歩き始める。

 僕らもその後を追って歩き始めた。

 異界の暴走。

 その試練から僕らは生還したのだった。


 後日談がある。

 翌日、僕は生徒に囲まれていた。昼休みの時間だ。


「番長の命を救ったって本当?」


「やっぱユニコーンの力?」


「古代種でも対応できない相手だったってマジ?」


 生徒は口々に僕の意見を聞こうとする。

 どれから答えたものか困ってしまった。

 僕は聖徳太子ではない。


「どけどけい」


 大声で割って入る者が二人あった。


「コトブキは書類が残ってるんだ。自由にさせてやれい」


「はあい」


「じゃあなコトブキ。書類落ち着いたら話聞かせてくれよな」


 そう言って生徒は解散していく。

 後に残ったのは、不良が二人。

 勝手に僕の前の席と隣の席を借りて座る。

 笹丸は後ろ手に何かを隠していて、緑は反対向きに椅子に座り背もたれに両手を置いている。


「どうしたんだ? なんか用? 皆を席に戻してくれたのは感謝するけど」


 二人は目が泳いでいる。


「その、なんだ」


「これ、俺達からの気持ちだ」


 そう言って、笹丸は焼きそばパンを僕に手渡した。

 僕は目を丸くする。


「いいの?」


「いいもなにも」


「命の恩人だしなあ」


 状況を把握するのに五秒ほどかかった。

 思わず、表情が綻ぶ。

 この焼きそばパンは感謝の印というわけか。


「ありがとう。優子の弁当と一緒に食べるよ」


「おうよ」


「今日部室で例の師匠の話とかカードを手に入れた経緯とか教えてくれよー」


「お安いもんさ」


 会話がポンポンと繋がる。

 心地いい。

 僕が不良に囲まれて心地よく感じるなんて想像しなかった事態だ。


「じゃあな、コトブキ」


「また後で」


 そう言って不良達は席へ戻ろうとする。


「いや、なんだ」


 僕の言葉に二人の動きが止まる。


「一緒にご飯食べない?」


「いいのか?」


「もちろん。優子もきっと歓迎するよ」


「お前ら、そういう仲じゃないの?」


「違うって」


「ほー、そこらもじっくり聞く必要がありそうだな」


 なんだか楽しい。


「若いうちの苦労は買ってでもしろってね」


 師匠の言葉が脳裏に蘇る。

 ありがとう、師匠。

 僕は学校に来ることで、友達を得たのかもしれなかった。


 その日の夜、僕はいつもの公園へと辿り着いていた。

 師匠が缶コーヒーを手首で緩く振っている。


「お待たせしました、師匠」


「おう」


「いえ、歌世さん」


 缶の動きが止まった。

 師匠は何を考えているのか微笑んだままだ。


「何処で聞いた、その名前」


「ちょっと色々あったんでね」


「それじゃあ」


 そう言って缶コーヒーの中身を飲み干すと、師匠は空き缶をゴミ箱に高々と投げ入れた。


「話を聞こうか、コトブキ君」


「師匠までそれですか」


 苦笑交じりに僕は返す。

 あの男が一体何者なのか。

 僕は知る必要があった。



続く

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