決着
「遂に来たな、この場所へ」
そう言って徹は拳を突き出す。
「ああ」
僕は頷いて、拳に拳をぶつける。
二階席からは喝采が上がっている。
「恵さん、早急に優子を倒してくれ。後は二人がかりだ」
「は、はい!」
「優子。凌げる?」
「まあ、五分五分かな」
「なら、僕が徹を早急に倒して二人がかりといこうか」
優子と徹が目を丸くする。
普段弱気な僕が滅多に言えないジョークだ。
「その提案、乗った」
「まったく、幼馴染だからってお互い好き勝手言うよな」
徹はそう言って、片足で蹴るような仕草を見せた。
「両者、離れて!」
教師の声が降ってくる。
僕達は互いに距離を置いて、開始の合図に備えた。
どうしてだろう。ワクワクとしている。幼い頃の冒険ごっこの対決みたいな気分だ。
今の徹となら楽しく遊べそうだ。そんな気がする。
「開始!」
ゴングが鳴った。
「プロテクション!」
徹が真っ先に唱えた。
六角形を連ねたような透明な壁が現れ徹の前方を守るバリアとなる。
しかしそれを、僕は既に読んでいる。
速度では圧倒的にこちらが優位。
それに対策するには最速でバリアを張るしかない。
床を二回蹴って徹の後方を取る。
しかし、読まれている。
徹は振り返った。
更に僕はそれを読み、三度目と四度目の地面を蹴った。
三度目は視覚から逃れるための必要動作。
四度目は跳躍。これで完全に視界の外へ出る。
そして五度目。
必勝の一撃を四度目の足跡の方向を見ているだろう徹の背中に味合わせる。
そして、僕は槍ごと斬られた。
「な……なんで?」
後方に後退しながら戸惑う。
今というタイミングを完全に読んでいなければ徹は僕に傷一つつけられなかったはずだ。
「ユニークスキル、精霊の加護」
徹は淡々とした口調で言う。
「俺は一日に一回だが、精霊の加護で死んでもやり直しができる。お前の行動は事前に経験済みだったわけだ」
「そこまでやる!?」
僕は悲鳴のような声を上げる。
徹はニンマリと微笑んだ。
「やる」
熱い血が流れ出ていく。
ヒールを期待したいところだが、上手くいきそうにない。
「歌世さんは支援支援って五月蝿いけど、私が目指してるのは万能選手なんですよ!」
そう言って、恵がボクシングのフットワークを踏みながら連撃を繰り出す。
それを、優子は杖でいなしていく。
「アクセルフォー!」
「スピダド」
恵が唱え、優子が即座に唱え返す。
見たところ、デバフスキル。
恵がアクセルフォーによって向上したはずの速度がスピダドの効果で逆に遅くなっている。
「アクセルツー!」
「スピダド、トクドド」
「ア……ク……セ……?」
「呪文は封じさせてもらったよ。こうでもしないと流石に恵さんと同じ土俵には立てないからね」
「卑怯な!」
「さて、ってことでお前にヒールをする余裕はなさそうだな。続きといこうじゃないか」
そう言って、徹は潮風斬鉄を構える。
「太腿から腹に向かって斬られて目眩もしてるだろう。お前の速度も半減。これで勝負になるってもんだ」
「くっそー、ずっりーずっりー」
「少しの不利ぐらいなんだよ。勝ってみせろよ、ヒーロー」
僕はぐぬぬと黙り込む。
「いいだろう」
最後の力を振り絞って、槍を再召喚して構える。
「決着は一瞬」
「俺の執念が勝つか、お前の愛が勝つか」
「大げさじゃない!?」
「楽しみにしてたんだよ、この時をよ。行くぜ!」
「ああ、こちらも行く!」
「チャージ!」
「ホーリーソード!」
二人の体は光となって前進し、ぶつかりあい、そして。
+++
「いやあ、決勝進出チームがうちの部員ばかりとは。嫌いな先生があわあわしてて面白いったらない」
そう歌うように呟くと、歌世は部室の扉を開く。
生徒はまだ来ていない。
今日は労いにファミレスにでも連れて行ってあげるのも良いかな、と思う。
部室には新しく飾られた写真が一枚。
優勝のトロフィーを抱き上げるコトブキと優子の右で、拍手している徹と恵の写真がある。
「勝ってみせろよ、ヒーロー、かあ」
歌世は天井に視線を向ける。
「憧れられるのも辛いよなあ。けど前を歩き続けるのが義務だぜ、ヒーロー」
そう言って、歌世は部室の扉を閉めた。
しばらく鼻歌が、廊下に響いていた。
続く




