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魔の者?

「で、来訪の理由はなんですか、師匠」


 大衆居酒屋で歌世は剣也に訪ねる。

 剣也はお通しを丁寧に噛み砕いて咀嚼した。


「なに。お前の見込んだ男というのを見たくなったのさ」


「まあ、できの良い子ですよ。反射神経も肉体強度も人間離れしてる。聖獣のカードが見込んだだけはあります」


「本当にそうか?」


 剣也は眉間にシワを寄せる。


「……何か問題でも?」


 歌世は少し不安になった。

 今の歌世は剣也より強い。それでも戦闘経験面ではまだ劣っている。


「あの琴谷という少年だがな」


「ビールお持ちしましたー」


 二人の前にビールの入ったジョッキが置かれる。

 剣也がジョッキを持ち上げる。

 歌世はそれに自分のジョッキを軽くぶつけた。


「はい、コトブキ君がどうしましたか?」


「嗅ぎ慣れた匂いがする」


「ワキガですか」


 少し不安になりつつも歌世はからかう。

 剣也は一気に情けない顔になる。


「儂ってワキガなのか?」


「自覚がなかったので?」


「ふむ。匂いには気をつけないといかんな」


「で、コトブキ君ですが。なんの匂いがすると」


「まだ確信を持って言えるわけではないが……魔の匂いだ」


 歌世のジョッキを煽る手がとまった。


「魔の……匂い?」


「そう、魔の匂い」


「間男の間じゃなくて悪魔の魔?」


「お前は少しは真面目に話を聞く気はあるのか?」


「ありますとも。師匠の話はいつも真面目に聞いています。しかし、魔の匂い、ですか……」


「あの男、悪魔達のスパイではあるまいな」


「それは有り得ません」


 歌世は自信を持って断言できる。

 コトブキは常に命をかけてこの世界を守ってきた。

 あれが偽りの姿なわけがない。


「儂も耄碌したのかのう。けど感じるのじゃよ。微弱に、しかししっかりと」


「両親は人間のはずですが。恵もそう言っています」


「気になるの」


 剣也もビールを一口飲む。


「この地にはやはり何かあるのだろう」


 剣也は言う。


「何か、ですか」


「この地を儂が訪ねると妨害に来る魔王のホルダー。乱立する隠れ異界。そしてこの地にしか現れない四天王を名乗る魔物達。何かないと思う方が妙よ」


「確かに、私もこの町の隠れ異界の数は尋常ではないと感じました」


「調査に乗り出したいところだが、また魔王のホルダーが妨害に来たら一般人をも巻き込んでしまう。頼んだぞ、弟子よ」


「了解です、師匠。しかし……」


 歌世は言い淀む。可愛い弟子の笑顔が脳裏に浮かぶ。


「私はコトブキ君が魔の者とはとても思えないのです。彼は四天王を二体も撃破してみせました」


「それ自体が出来レースだとしたら?」


「とんでもない。一歩間違えれば死人が出てもおかしくなかった」


「お前さん、教師の欲目も入ってやいやせんか」


 鋭いツッコミに歌世は口ごもる。


「とりあえず頼んだぞ。ナンバースもそれを期待してお前をこの戦闘の多い地に送り込んでおる」


「……わかりました」


 コトブキが魔の者という話は俄に信じがたい。

 しかし彼の人間離れしたスペックを考え直してみると確かに人間と言い難い部分がある気がする。

 一体どうしたものか。


 歌世はとりあえず、目の前のビールをもう一口飲んだ。




続く

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