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奇術師のホルダー

 魔王のホルダーが剣を鞘から抜き、高々と掲げ、その後こちらを指す。

 すると、その背後から大量の騎馬兵が現れ、ランスでこちらに突進を始めた。


「なっ」


 僕は焦りはしなかったが、驚いた。

 五月雨・改では撃ち漏らしが十二分に出る量だ。

 徹が一歩前へ出て、潮風斬鉄で十字を切る。


「ホーリークロス!」


 閃光が弾けた。

 光の本流は敵を飲み込み、魔王のホルダーまでをも飲み込んだ。

 しかし、騎馬兵は消えたが、彼女の姿に傷一つもない。


「ホーリークロスが、効かない?」


 徹が驚愕した様子で言う。


「後は僕に任せろ!」


 その時、僕はすでに側面の公民館の壁を蹴り、魔王に肉薄していた。


「チャージ!」


 僕の体は光となり、魔王の体を貫く。はずだった。

 しかし、黒いオーラがそれを阻んだ。


 慌てて数歩後退する。それだけで二十メートルは距離を離せた。

 そこに、黒い波動の追撃が襲いかかる。


 横に回避し、再び突進。しかし、やはり黒いオーラが邪魔をする。

 徹には速さが。

 僕には力が。

 それぞれ魔王を倒すには足りていないらしい。


 このオーラはきっとバンチョーの神の闘気と同じ類のものだろう。

 魔王は再び剣を高々と掲げ、その次は大地を貫いた。

 騎馬兵が再び大量に現れる。それと同時に、光の本流に飲み込まれていった。


「させねーよ」


 徹が吐き捨てるように言った。彼がホーリークロスを放ったのだろう。

 徹は駆け出す。

 魔王は暫し考えた後、剣を地面に刺した。


 すると、その背後に黒く巨大なゴーレムが現れた。

 ゴーレムの長い腕が徹めがけて振り下ろされる。

 それを回避し、徹は相手の腕を断った。


 ゴーレムの悲しげな咆哮が周囲に響き渡る。

 騒音迷惑だ。


 僕はそう思い、ゴーレムの脳天にチャージを叩き込んだ。

 ゴーレムの咆哮が止まり、その体が魔王の影に飲み込まれていく。


 徹はさらに駆ける。

 魔王は今度は間髪入れずに、掌を徹に向けた。


 徹はその時既にプロテクションを展開している。


「青いの。若いの」


 そう言って徹の前にいつの間にか立っていたのは、剣也だった。


「危ない! 俺の後ろに退いて!」


「それこそが罠なんじゃよ、若いの」


 剣也の双眸が鋭く輝いた。

 黒い波動が放たれる。

 先程の比ではない。


 最初の奴は様子見の手加減だったということか。

 剣也はどこからともなくサンタクロースが使うような大きな袋を取り出して、広げた。


 黒い波動が袋に吸い込まれていく。

 袋が弾けんばかりに膨れ上がる。


 そして、剣也は軽く袋を叩いた。

 黒い波動が開放先を探すように吐き出される。その向こうにいるのは魔王のホルダーだ。

 魔王のホルダーはそれに飲み込まれ、消えた。


「倒した……のか?」


 徹は戸惑うように言う。


「いや、一時退却したようじゃの。儂が来るといつも歓迎を受ける」


 剣也はぼやくように言う。

 これが師匠の師匠。

 初めてカードホールドを人間にもたらした戦いの天才の戦い方。


「ま、これで訓練ができるというものじゃ。歌世、弟子の力を見ている時に邪魔をして悪かったの」


「いえいえ」


 そう言えば師匠は戦闘に加わっていなかった。

 それほど剣也を信用していたということか。


「己に足りないものは十分に理解したじゃろう。後は、それをどう補うか、じゃ」


 剣也の手から、袋が消える。


「今まで俺は、人間種最強のホルダーは勇者のホルダーだと思っていた。貴方のは、一体……」


「最強なんてとんでもない。冗談みたいな戦いしかできない、奇術師のカードじゃよ」


 そう言って、剣也はほっほっほと笑った。



続く

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