不吉な予言
「こちらの勝ちのようだな」
徹はそう言って唇の片端を持ち上げる。
バンチョーは白けたような表情になる。
「援軍が来るまで粘れると思っとったんじゃがのう。甘かったわい。今日はここらで帰らせてもらう」
「逃がすかよ!」
徹が潮風斬鉄を振るう。
それを、バンチョーは二本指で掴んだ。
「異界、展開」
その瞬間、その場にいたアークスが一瞬で消えた。
皆、一箇所に駆け寄る。
「助かったよ」
ナンバースの青年が気恥ずかしげに言う。
「流石は歌世さんのお弟子さん達だ」
もう一人のナンバースも、感謝しきりだ。
「けど、代えの車のナンバーは見られてしまった」
守られていた女性が言う。
ナンバース二人の表情が一気に引き締まった。
「代わりの車が来るまで助力頼めるか」
「だってさ、部長」
徹はからかうように言う。
コトブキは情けない表情になった。
「部長はよしてくれよ。護衛するよ。師匠の頼みだ。僕らにできることならなんでもする」
緑はやや不満げな表情になったが、他の面々は乗り気のようだ。
女性がその時、コトブキに歩み寄っていった。
「不思議な相をしているわ」
弦を弾いたような、余韻を残した声が響く。
「不思議な相?」
「待っているのは過酷な運命。けど、貴方は戦い続けるのでしょうね」
コトブキは黙り込む。
徹は、内心焦った。
コトブキはこういうことを真面目に考え込むタイプだ。
「選ばれし者。槍を取って戦う者。世界を救う鍵の一つ。」
「世界を――救う?」
コトブキは戸惑うような表情になる。
「私と貴方はまた会うことになるでしょう。聖獣のホルダー。その時まで、御機嫌よう」
そう言うと、女性はコトブキに背を向けて、歩いていった。
コトブキはその背を、じっと見つめていた。
「あんま気にすんなよ、コトブキ。ありゃ電波女だ」
「電波?」
コトブキが表情を緩める。
「どこかから何かをゆんゆん受信してるのさ」
そう言って肩をすくめると、コトブキは久しぶりに笑顔を見せた。
もっとも、苦笑顔だったが。
「なんか今日は随分長いな。まだ昼間だなんて」
「そうだな。まあ帰って座学を受けてるよりは有意義だ」
「御尤も」
「座学も大事だよ」
窘めるように優子も話題に加わる。
車が来るまで、まだしばし時間がかかりそうだった。
続く




