罠
「これ以上人の心を踏みにじるな!」
僕は叫んで、槍の柄で連撃を加える。
しかし、ダイゴに効いた様子はない。
「踏みにじるな、か。それはどんな状況を言う」
ダイゴの言葉に、僕は攻撃の手を止める。
ダイゴは光剣を高々と掲げて、隙さえあれば今にも振り下ろしてきそうだった。
「人は誰しもパーソナルスペースがある。しかし学校や職場ではそんなことは言っていられない。どうすれば許されるのか。それは相手に委ねられる。そして、その結果が拒絶だとしても無視しなければいけない時はある」
「な……」
「誰もが人を踏みにじって生きているんだ。細かいことを気にして人生生きていけるか」
極論だ。
しかし、人々のパーソナルスペースから完全に拒絶された経験があるダイゴの台詞だから説得力がある。
「お前も気を使うのを辞めたらどうだ」
ダイゴが目を鋭く細める。
「お前、槍の切っ先を使っていれば、もう二十五度は俺を殺せているだろう」
僕は知らず知らずのうちに一歩を退く。
勇気とは一体何だ。そんな問答が脳裏に浮かぶ。
相手が自分を殺さないと確信してのダイゴの大上段の構え。
行き過ぎた勇気は、暴走したら止まらない。
「くだらない問答は終わりにしよう」
僕は、溜息混じりに言う。
「平行線だ」
「それでいい」
ダイゴが剣を振り下ろす。その瞬間、僕はダイゴのカードホールドと腕の隙間に槍の切っ先を通し破壊していた。
勝った。
そう確信したが、笑ったのはダイゴだった。
光の剣の下から、黒いトンカチが現れる。
二人の腕が交差する。
ダイゴのトンカチは、僕のカードホールドを完全に叩き折っていた。
「ここまでだ、聖獣のホルダー!」
「最初からこれを狙って……!」
「そう。カードの経験点ではとても勝てない。スピードでも追いつけない。お前の甘さと一瞬の隙につけこむしか俺に勝ちはない。そして俺は」
ダイゴの腕が僕の胸ぐらをつかむ。
「柔道の有段者だ」
ぐいと体を引かれる。
「アクセルフォー!」
恵の声だ。
体が軽くなった。
恵が速度上昇スキルアクセルをかけなおしてくれたのだ。
僕は服を脱ぐと、そのまま飛び上がって相手の顎に膝を叩き込んだ。
勝敗は決した。
脳が揺れたダイゴは地面に蹲り、せめてもの抵抗と勇者のカードを手に掴んでいる。
その時、バンチョーにやられて倒れていたナンバースのメンバー達が立ち上がっていた。
優子のヒールが間に合ったのだろう。
「僕達の、勝ちだ」
僕は蹲るダイゴに、そう告げていた。
「悪夢は終わりだ、ダイゴ。これからは正しき道を行け」
ダイゴはなにも言わない。
ただ、悔しげに一度地面を叩いた。
続く




