何故
「バンチョー、なんであんたがアークスなんかに!」
緑の声が虚しく響く中、僕と徹は敵のパーティーに向かって駆けた。
「プロテクション!」
ダイゴが防御呪文を発動させる。
これで前面からの攻撃は通じない。
背後を取るより他はない。
地面を蹴る。徹と距離ができることで幾分かの不安が鎌首をもたげた。
しかし今は一人ででもやるしかない。
もう一度地面を蹴る。
振り上げられた光剣が僕を出迎えた。
槍で光剣を受け止める。
強い力だ。
姿勢を維持するのがやっとだ。
「ダイゴ、これ以上罪を重ねるな!」
「罪?」
ダイゴは怪訝そうな表情になる。
「アークスは異界の研究のためには一般人をも巻き込む組織だ。お前はもう善の道に戻ってもいい!」
「ならば魔王はどうする!」
僕はぐっと黙り込む。
「アークスの研究は役に立つ。なによりも」
ダイゴはそこで気まずげに言葉を区切る。
「これは俺の人生を修正する就職活動なんでね」
「そんなくだらない理由を人攫いにつけるな!」
「俺にしてみれば必死なんだよ!」
おかしい、ダイゴの力が強まった。
僕は思わず膝をつく。
「これは、一体……」
「ユニークスキル、気力活用。勇者は時として心の強さで状況を打破しなければならない。俺の気力が上がれば上がるほど俺の技術と力は高まっていく」
「だが、所詮は急造品だ!」
僕は槍の角度を傾けた。
槍の柄に押し付けられていた光剣が滑り落ち、全力を乗せていたダイゴは姿勢を崩す。
そこに、僕は槍の柄の先で五連撃を叩き込んだ。
光剣が振るわれる。
僕はそれを受け流すと、さらに脳天に一撃を浴びせた。
そう、僕は急造品ではない。師匠との訓練の日々の上に今の僕がいる。
しかし、ダイゴに効いた様子はない。
「タフさまで上がってるのか……まったくやり辛いったら」
思わず愚痴る僕だった。
素早さに特化した弊害。力のパラメーター不足。今後もそれは課題になってくるだろう。
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「バンチョー。俺は、あんたを正しい人だと思っていた」
「なら、俺の選択を信用せえ。あのお嬢ちゃんは悪いようにはしない」
徹とバンチョーは向かい合っていた。
魔術師には恵が狙いをつけ、緑は女性の保護に回っている。
「アークスの言うことなんか信用できるか。さっきあんたはなにをした? ナンバースのメンバーの腹部を貫き重症を負わせたじゃないか」
「必要な犠牲もあるということじゃ」
「変わったな」
徹は目を細める。
「あんたは犠牲をよしとするような人間ではなかった。学校を少し離れて数ヶ月。それでここまで変わるか」
徹は光剣を消し、腰の潮風斬鉄に手を伸ばす。
そして、刀を鞘から抜いた。
「ピンポイントプロテクション」
刀身をバリアが覆う。
拳で狙うより余程効率よくダメージを与えられるだろう。
「徹。俺を信じろ。世界を救うためじゃ」
「俺はあんたの壮大な夢物語よりも、目の前の一人の女の子を守る。それが俺の正義だ」
「なら、俺は俺の正義で対応させてもらおうかのう」
そう言って、バンチョーは腰を落として構えを取る。
徹も、刀を構えた。
コトブキとダイゴが動の決戦ならばこちらは静の決戦。
二人共、相手の出方次第で状況が一気に変わることを理解しているがゆえに、迂闊に動けなかった。
戦いは続く。
続く




