勇者、再び
速度が足りない。
このままでは僕が割って入る間にバンチョーは女性を捕まえる。
それを防ぐ手段は一つしかない。
「チャージ!」
スキルの発動。僕の体は光のように速く直進し、バンチョーの腕を貫く、はずだった。
バンチョーは指一本で僕の突撃を受け止めてみせた。
「流石に速い。だがそれだけだ」
龍の爪が襲い掛かってくる。
それを、僕は女性を抱きかかえつつ後方へ飛ぶことで回避した。
一先ず、重要人物は確保した形だ。
「見事だ、コトブキ!」
そう言いながらバンチョーに向かって直進するのは徹だ。
ピンポイントプロテクションによる攻撃。
それこそがバンチョーの神の闘気に対抗する数少ない手段。
ここが異界なら空間の断裂も使えるのだが、そうではないので言っても始まらない。
車の影から人が飛び出してきた。
ダイゴだ。
ダイゴはカードホールドを撫でると、手を前へと突き出した。
「ピンポイントプロテクション!」
そして、二人の拳がぶつかりあう。
ガラスが割れたような音がして、二つのバリアは消えてしまった。
ダイゴは袈裟斬りに光の剣で攻撃し、徹も光の剣でそれを受け止める。。
勇者対勇者。
運命のように二人は引き合い、その対決を実現された。
「ダイゴ! お前がいるってことは……」
「ええ、そうよ」
僕が着地する地点に氷の矢の雨が降り注いだ。
前回戦った魔術師の女と、コユキが、物影から出ていた。
「ゼロ・ストーム!」
槍を高速回転させ槍を防ぐ。
その回転が、拳を凍りつかせられることで止められた。
「うぐ?」
矢が僕を幾重にも貫く。
そして、着地して後方へ離脱する時には、体中から血が出ていた。
跳躍中は無防備になりやすい。師匠も言っていたことだ。
そのアドバイスを失念していたことを悔やむしかない。
「ヒール!」
優子が唱える。
氷が溶けて、体中の怪我が治癒され始めた。
さて、どうしたものか。
徹がステップを踏んで数歩下がると、僕の隣に並んだ。
「ダイゴをなんとかできるか? コトブキ」
「それぐらいどってことないさ」
「今のところバンチョーに通用するのは俺のピンポイントプロテクションだけだ」
「だね。徹とバンチョーをマッチングさせなきゃならない」
再び氷の矢の雨が降ってきた。
「プロテクション!」
徹が唱えると、六角形を連ねたようなバリアが前面に展開される。
それは一本残らず矢を弾いた。
「それじゃ、行きますか」
僕は女性をおろして言う。
「頼むぜ、相棒。俺はお前みたいに速くない」
僕達は拳と拳をぶつけ合わせると、バンチョーパーティーに向かって突貫を敢行した。
続く




