救いの手
大吾は根城にしている山奥の廃墟へと戻ってきた。
小雪は庭の縁側に足を投げ出してスナック菓子を食べている。
「これからどうしたものかな」
小雪はしばらく考えこんだが、あっけらかんと笑った。
「死神さんの用意してくれた食料がなくなったら考えよう」
その笑みに癒やされて、大吾もつい微笑んだ。
「そうだな」
「ヒマヒマヒマヒマー」
つぐみが寝転んで脚を振リながら言う。
「悪人退治はもうできないの? つーか死神の奴は?」
「殺した」
空気が強張った。
「お兄ちゃん?」
小春も怪訝そうな表情になる。
「思い返しもしてみろ。あいつがいなければ俺達は殺人鬼にはならなかったし、混沌種のホルダーになることもなかった。多分、あいつは悪魔と何か関わりのある奴だ」
「そんなの知ってたさ」
つぐみは声を張り上げて叫ぶと上半身を起こした。
「それでも私は復讐をしたかった。今だって後悔なんてしていない。世界は悪人に甘すぎる」
「そうだな。だが俺達も今は悪人だ。それも死刑確定の」
重い沈黙が周囲に漂った。
それを破ったのはこの三人の中での誰でもなかった。
「困っとるようじゃのう」
男の声だ。
振り向くと、ガタイのいい黒スーツの男がそこには立っていた。
手にはカードホールドを装着している。
「残念ながらお前さんが傷つけた被害者達には既に護衛がついている。俺が幸子さんの護衛じゃったってわけだ」
そう言って、男は肩に落ちた葉を払った。
大吾は剣を手に持つ。
その途端に吐気がした。
幼馴染を殺し、幸子の手を容赦なく貫いたこの剣。
その強さは、最早呪いだ。
カードは点滅し、勇者と戦士を行ったり来たりしている。
「これは極秘じゃが、俺達は一人の少女を追っておる」
男は三人に視線を戻して言った。
「じゃが、これを妨害する勢力も追ってな。ちと苦戦しておるのよ」
「助力を請いたい、とでも言う気か? 俺達になんのメリットが有る?」
「今回の件をチャラにしてやって公務員として取り立ててやると言われたらお前さん達はどう思うかな」
男は唇の片端を持ち上げ、目を細めて微笑んだ。
そんな話、願ってもないことだ。
「嘘じゃない、という証拠は?」
「別に、俺が三人共この場で蹴散らしてやってもかまわんのだぞ。それをやらんのは純粋にチームが必要だからじゃ」
「……あんたは一体……」
黒スーツの男はポケットから手帳を取り出し、開いた。
中には男の写真と名前が書いてある。
「探索庁特殊任務科所属番田長介。皆にはバンチョーと呼ばれとる」
そう言うと、男はポケットに手帳をしまった。
「さあ、時間はないぞ。事件は現在進行系で進んじょる。俺達はチームだ」
男は両手を広げる。
「俺達アークスの一員になってくれ」
この胡散臭い男を、大吾は戸惑いながらも見つめ続けた。
続く




