立場が違えば
その後、解散した後も、僕は大吾と小春のことを考え続けた。
もやもやした気持ちは消えそうもない。
彼らは大量の人を死に陥れた殺人犯だ。
しかし、同情の余地は本当にないのだろうか。
あっという間に、師匠との待ち合わせ時間になった。
足音を殺して外に出る。
まだ涼しい空気が僕を出迎えた。
しばらく歩いて、公園に辿り着く。
師匠ははたして、その場で待っていた。
僕は、心の内を師匠に明かした。
師匠は顎に手をあて、暫し考え込むと、人差し指を立てて口を開いた。
「例えばだ。外国の中学校で生徒が銃の乱射事件を起こして、十数人死んだとする。君はどう思う?」
「それは、酷いやつもいたもんだなって」
「ただ、調べていくうちに犯人はいじめられっ子だったとわかった。君はどう思う?」
僕は沈黙する。
やはり、酷いやつだと思うだろう。
師匠は苦笑した。
「そういうことだよ。君は大吾君の過去を追体験した。だから、相手に感情移入する。けど、実際に体験しないと結局は他人事でしかないのさ」
「……記憶の中の彼は苦しんでいました。今もきっと」
「攻撃してもいいと思えばいくらでも残酷になれるのが人間だからね。彼もきっと辛い思いをしたんだろう。彼の妹も、彼らが殺した人々も。いじめに救いなんてないのさ。自殺者が出たいじめ事件で加害者が転校先でいじめられた例なんてのもある」
「……なんで人間ってこうなんですかね」
「所詮は霊長なんて名乗っていても動物ってことだろう。私達人間は自覚している以上に野蛮なのさ」
僕は言葉を失った。
カメレオンのホルダー時代に受けた仕打ちを忘れたわけではない。
攻撃していいと思えばいくらでも残酷になれる。
それは、確かに人間の特徴のように思えた。
「悪魔に味方するパーティーが出た。これは脅威だ。早いとこ逮捕しないと犠牲者は増える一方だろう」
「話し合いで、なんとかならないんでしょうか」
「引き返しようがないことは大吾君自身が一番良くわかっているだろうよ」
そう言うと、師匠はコーヒーを一口飲んだ。
「さ、今日も修行と行こうじゃないか。彼らは去った。多分しばらくはこの地に寄り付かないだろう」
「寄り付いた時は?」
師匠は目を細めた。
「ナンバースの方針としてはカードホールドを破壊するか、それが不可能なら……」
「殺すんですか」
師匠は後頭部をかく。
「責めるなよ私を。上の方針だ。あくまで第一目標はカードホールドの破壊だ」
「それなら、まだ救われる、のかな?」
「未成年だからね。きちんと罪を償ってもらうことになるだろう。この話はここらで終わりにしよう。私達は私達の日常に帰らなければならない。尤も、大吾君の記憶を追体験した君には難しいかもしれないが」
「……善処します」
大吾が記憶の中で受けた苦しみ。
侮蔑の視線と嘲笑の言葉。
それはまだ、僕の中にはっきりと残っている。
しかし、僕は日常に帰らなければならない。
僕は大吾ではないのだから。
結局は、他人事なのだろう。
そして、だからこそいじめの芽はなくならないのだろう。
なんて救いのない話だろうと思った。
その日は、一本も取れなくて、僕は師匠に怒られた。
まったく、散々な一日だった。
続く




