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現れる魔物達

「宇崎市の北部でモンスターの発生が確認されました」


 ニュースキャスターの一言で家族全員の箸が止まる。

 夕飯の時間だった。

 テーブルの上には母の料理が並んでいる。


「モンスターはトロルと思われ、近くに異界がないか探索者が捜索しています」


「お前も借り出されるのか」


 父が無表情に言う。


「いや、僕は見習探索員だから。本物の探索員が投入されるんじゃないかな」


 それにしても、多い。

 最近のこの町の異界の発生率は異常だ。


 このままでは、追いつかなくなるとは報告を受けた教師も言っていた。


「そうか」


 父はそうとだけ言うと、料理に集中し始めた。

 まだ僕がMTになることに賛成していないのだ。

 それでも、息子の意志をできるだけ尊重してくれた父に僕は感謝を忘れない。


 夜になると、足音を忍ばせて公園に出る。

 師匠がいつものホットコーヒーを飲んで待っていた。


「そうだね。確かにこの町では最近異界がポンポン出てきている」


「僕が知ってるだけでも二週間で二つですからね」


「うん。それ以外にも出てきていると考えるべきだ」


「ですよねえ……」


 住み慣れたこの町を魔物が闊歩するのは正直怖い。

 思い出の場所や学校が襲われたらと思うと身震いしてしまう。


「異界はね、心象風景なんだよ」


 師匠がコーヒーを振りながら言う。


「心象風景?」


「最初の発見者の心を強く写す。君の先輩が見つけた異界も鳥系じゃないと攻略できない仕組みだっただろう?」


「砂漠と海はなんなんでしょう」


「乾いてるのさ、きっと」


 底の見えない海に一面の砂浜。

 先輩は心に闇があるのかもしれなかった。


「願望が現実を浸食する時異界は生まれる。それが生まれやすいということは、なにかあるのかもね」


「師匠はなにが原因だと思います?」


「うーん……考えたくはないが」


 答えを知っているような口ぶりだ。

 僕は緊張して背筋を伸ばす。


「上の方に異界発生に協力している者がいる」


「上?」


「そ、上」


 政治家ということだろうか。

 師匠はそれ以上は教えてくれなかった。



+++



「異界探しに行こう」


 番長が椅子に座って言う。

 僕らのMT部は発足届を受理され、無事部屋も充てがわれた。


「何処に? モンスターが出た場所なら立ち入り禁止ですよ」


 優子が訝しげに言う。


「特別に許可を得た。町を守りつつ財宝も探す。一石二鳥じゃ」


 先輩はスマホをいじって黙り込んでいる。

 この前は饒舌だったが、基本この人は大勢がいると必要がなければ喋らないのかもしれない。

 まあ、それは僕も同じだが。


「多数決を取る。行くか、行くまいか。行く人は挙手しろ」


 不良二人と先輩と僕が手を挙げる。

 優子は暫く悩んでいたが、僕が挙手したのを見て恐る恐る手を上げた。

 番長の顔が喜色に染まる。


「決定じゃ。じゃあ早速行こう。荷持は笹丸じゃな」


 笹丸とは二人組の不良の一人だ。ゴリラのホルダーだとかで筋力に秀でている、

 もう一人は忍者のホルダーで緑と言うらしい。


「わかりました、準備してきます」


 笹丸はそう言って部屋を出ていった。


「頼むぞうユニコーンのホルダー。俺達で町を守るんだ」


 町を守る。

 そうだ、それが探索員の仕事だ。

 徹が示してくれた道。僕が憧れたもの。

 ユニコーンの力ならそれができる。


「私は宝物発掘のボーナスが出るならなんでもいいや」


 先輩は気だるげに言った。



+++



 北部まで徒歩二十分。

 森の前に僕らは辿り着いた。


 パトカーが何台も止まり、森の入口には看板が立てられている。

 モンスター発生注意、とある。

 看板の前には二人の警官と三人のカードホールドをつけた探索者らしき人々が番をしている。


「MT部です。許可証を得てきました」


 先輩がそう言って許可証を示す。

 警官は頷くと、道を開けた。


「くれぐれも気をつけて。森の中だから不意打ちに注意しろ」


「了解です」


 そう言って先輩は前を歩いて行く。

 鬱蒼とした森の中を一行は歩く。


「私は別行動で行くよ。こういう森の中こそ私のカードの見せ場だ」


 そう言って、先輩はカードホールドに始祖鳥のカードを差し込む。

 そして跳躍すると、木の枝と枝の間を滑空して去っていってしまった。


「それじゃあ俺も上空から探すかのう。コトブキ、皆を頼むぞ」


 そう言って番長も飛んでいってしまう。


「気配探知なら俺に任せろ。忍者のホルダーの見せ場だ」


 そう言って緑は胸を張る。


「後は頼むぜえ、ユニコーンのホルダーさん」


 笹丸は笑うように言う。

 一年生組だけになれば僕いじりが始まる。悪い風潮だと思う。


「まあ任せろ。誰にも傷を負わせたりはしない」


 僕はそう言って、カードホールドにユニコーンのカードを挿すと先頭を歩き始めた。

 この時まで、僕は普段の日情の中にいたのだ。

 この時までは。



続く


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