噂話
「噂になってるよ」
場面が転換した。
今度は大吾の自室だ。
妹の小春がこちらを見ている。
「噂?」
大吾は意表を突かれたように言う。
「お兄ちゃんが前の席の二人を授業中に観察してるって」
大吾は愕然とした。
「俺は黒板を見てるだけだ」
「けど、噂になってるんだもん。正直、困る。私まで巻き込まないで」
そう言うと、小春は部屋を出て行った。
どうしたものだろう。
これからも黒板を見なければ授業を受けられない。
けれども、そうすればこちらを見ていると難癖をつけられる。
解決策は思い浮かばない。
そのうち、時間が解決するだろう。そう楽観的に決めつけて、大吾はその日は眠りについた。
次の日は球技大会だった。
大吾は肩が強いから外野だ。
少し前には、女子二人が守りについている。
教室で前の席の二人だ。
まさかな。そう思いながらも守備につく。そして、打者のバットに視線を向けた。
女子二人は、振り向いて大吾を見ると、囁きあってそのまま逃げるように去って行ってしまった。
大吾はやはり愕然とする。
どうすればいいと言うのだ。
打者がヒットを放つ。ボールが飛んでくる。
それに視線を移し、大吾はボールをキャッチした。
観客席に視線が向く。
複数の女子が、大吾の目に意識を集中させていた。
どうすれば、いいと言うのだ。
続く




