大吾
ここは何処だろう。
学校のような建物だ。
制服を着た高校生ぐらいの少年が側にいる。
「おはよう、大吾君!」
廊下を歩いてきた女子生徒が弾んだ声で言う。
「おはよう」
僕の口は勝手に動き、顔にも勝手に笑みが浮かんでいた。
これは誰かの記憶だ。
薄っすらとそんな理解が追いついてきた。
「誰だ? 今の」
省吾が言う。
省吾は大吾の幼馴染だ。
「知らない」
大吾は苦笑交じりに言う。
「知らないのに挨拶されるのか。流石勇者のホルダーだな」
「なんか怖いよ。進学してから持ち上げられすぎてる気がする」
「いいじゃんか。俺なんて挨拶もなしだぜ」
省吾は拗ねたように言う。
「ま。勇者ブームも半年も経てば終わるだろ」
大吾はそうと見ていた。
大吾はあまり器用なたちではない。ボロが出る日も近いだろう。
「どうかねえ」
「おはよう、大吾君」
また、声をかけられた。
今度は知っている顔だ。確か、斜め前の席の生徒。
「おはよう」
「今日も頑張ろうね!」
そう言って、少女は歩き去って行った。
「正直やり辛い」
「勇者のホルダーの運命だと思って諦めるんだな」
そう言って省吾は肩を竦めた。
授業が始まり、僕らは席に移る。
前の席の少女が、急に後ろを向いて僕の目をじっと見た。
黒板を見ていたところに振り向かれたので、自然と目があう。
少女はにんまりと笑って、こう囁いた。
「こっち見てるね」
「は?」
見てるもなにも、前を見なければ黒板が見れない。
だが、少女は意味ありげに笑うと、前を向いた。
なんなんだろう。
これが破滅への序曲だと大吾はまだ知らなかった。
続く




