観戦者
「わざとじゃないですってばあ」
「どうかしらね」
許してくれと懇願する純子を優子は突き放す。
幻術が解かれた時、優子と戦っていたのは純子だったのだ。
純子は優子の恋人であるコトブキに片思いしている。
邪魔者を排除する絶好の機会だったわけだ。
「私はもう、正々堂々と勝負するって決めたんです」
「意外と頑固よ。コトブキは。一度腹を決めたら中々覆さない」
「けど所詮男の人だからなー。私に好かれて悪い気はしてないんじゃないかな」
純子は後ろ手を組んで言う。
「今、前衛はいないし私は支援スキルしか取ってない。アタッカー頼むわよ」
「了解です」
色恋の話はここまでだ、とばかりに優子は言う。
空気が引き締まった気がした。
「それにしても、どんな人間が作った異界なんでしょ、これ。仕掛けも外見も趣味が悪すぎる」
二人が歩いているのは肉塊が蠢いているような壁で作られた道だ。
それは、醜悪以外の何物でもない。
「ちょっと前に行った隠れ異界もこんな感じだったな。同じ発見者だったのかしら」
「だとしたらちょっと怖いな。そんな人が同じ県に住んでるなんて」
「そうね。こんな異界を作り上げるなんて、趣味が悪いわ」
異界は発見者の心象風景を色濃く映す。
穏やかな人間が発見すれば草原や花畑などの穏やかな異界に。異常な性癖を持つ人間が見つければこのような異界になる。
「どんなボスが待ち受けているやら……」
半ば諦め混じりに優子は言う。
その時のことだった。
純子が立ち止まり、優子の前進を手で制した。
「います」
優子の表情が引き締まる。
物影から、一人の少女がゆっくりと現れた。
「心配しなくても大丈夫。私も戦闘能力はありません」
フードを目深にかぶった少女だ。
手には水晶玉を持っている。
「戦えない者同士、見届けましょう。戦士達の結末を」
そう言うと、水晶玉が混沌とした漆黒のオーラを放ち始めた。
「貴女、混沌種のホルダーね」
優子は言う。
混沌種。
悪魔の介入によって進化したカードを指す。
蹴鞠の始祖鳥のカードも今は混沌種のカードとなっている。
「ええ。何か問題でも?」
「悪魔と取引したの?」
「ええ。だから、私と貴女は敵同士。分かりやすくていいじゃないですか」
そう言って、少女は唇の両端を持ち上げた。
「見えた」
水晶玉に三つの光景が浮かびあがった。
歌世とコースケの戦いは速すぎて目で追えない。
蹴鞠、緑、恵は、魔法使いと戦っているようだ。スキル合戦になっている。
そして、コトブキと徹。二人はまだ戦闘に入っていない。
その時、徹の影から、死神の鎌を持った男が浮かびあがった。
「徹!」
優子は思わず叫ぶ。
しかし、伝わるわけもなく、死神の鎌は勢い良く徹の首を狙って走っていった。
続く




