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魔の勇者

 百戦錬磨の歌世とコースケは、数度武器を合わせただけで幻術に惑わされずお互いの正体を見通していた。

 ただ、幻術のせいで言葉が伝わらず意思疎通ができず、待機していたのが実情だ。

 その時、光が走り、周囲の光景が変わった。


 肉塊が蠢くような壁。

 幸せになれる異界という触れ込みとは大幅に印象が違う光景だ。

 漆黒の炎に包まれた悪魔がコースケの姿に変わり、歌世は胸を撫で下ろす。


「これで一先ずは会話ができるわね」


「まいってたところだよ。歌世ちゃんはどんな夢を見た?」


「……久方に良い夢を見たわ。夢だったけどね」


 そう言って、歌世は苦笑して前を歩き始める。


「どうやらコトブキ君と徹君は合流してるようね。この二人は危なげないわ」


「緑と笹丸辺りはちょっと危ういかな」


「その辺りが危なくなる前に私達でダンジョンの主を倒しちゃいましょう」


「まあ、そうなるよなー」


 ナンバース、アークスと対極の組織に所属する二人だが、今は部活の顧問と生徒だ。

 頼りになる仲間と言えた。


 二人はしばらく歩いた。

 一本道だ。迷いようがない。


「こうまで一本道が続くと合流しようがないわね」


 歌世はぼやくように言う。


「けど、確実に近付いている。異界の主に」


 コースケは淡々とした口調で言う。


「私達は幻術にかかった。つまり、敵はそれなりの力量を持っているはずね」


「そうだね。僕ら雑魚の幻術なんて無意識に無効化しちゃうからなあ」


 コースケは天を仰ぐ。


「僕らがかかったってことは、つまりは僕らに通用するような敵が現れたってことだ」


「四天王だと思う?」


「さあ。しかしエルフのカードでいいのかい、歌世ちゃん」


 歌世は二枚のカードを持っている。スピード重視のエルフのカード。支援重視の不死鳥のカード。

 今回は、エルフのカードをメインスロットに入れている。


「とりあえずは様子見ね。あんまり強かったら不死領域のバリアを張るわ」


「頼むよ。と言っても、僕らはアークスとナンバースのスピードスターだ。そうそう敵う敵がいるとは思いたくないが……来たぜ」


 そう言って、コースケは手に金棒を呼び出した。

 額には角が生えている。

 コースケは鬼のホルダーなのだ。


 歌世も、無言で槍を手に呼び出した。


 なんて禍々しい気配だろう。

 二人の前にいるのは一人の高校生ぐらいの少年だ。

 しかし、その目は赤く光り、黒い闘気が体の周囲を覆っている。


「アクセル、イレブン」


 二人は、異口同音に唱え、自分にバフをかけた。

 足が途端に軽くなる。

 そして、二人は一瞬で敵の眼前に移動していた。


 槍が、金棒が、少年に肉薄する。


「――プロテクション」


 六角形を連ねたようなバリアが敵の眼前に現れて、歌世は目を丸くした。

 槍も金棒も弾かれる。

 二人は一時、後方へと飛んだ。


「プロテクション? 勇者固有のスキルじゃないか!」


 コースケが珍しく焦った声を出す。

 少年の手に黒い剣が現れ、その切っ先が六芒星を切る。


「ダーククロス」


 黒い本流が二人に襲い掛かった。

 狭い一本道だ。逃げる場所はない。

 歌世は素早くメインカードとサブカードを入れ替えた。


「不死領域!」


 歌世の体が炎になり、コースケまでをも包む。

 二人の傍を黒い破壊の衝動が通過していった。


「もう間違いなさそうね」


 歌世が、戦闘モードに入った淡々とした口調で言う。

 コースケも頷く。


「勇者。それも混沌種のカードのホルダーだ」


 歌世は指の先まで神経が張り詰めていくのを感じた。

 攻防共に人間種では最強の勇者のカード。

 強敵と断ずるには十分だった。



続く

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