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分断策

 翌日、僕ら一行は帰らずの異界の傍で車を降りた。

 師匠の表情が曇る。


「おかしい」


「おかしいね」


 コースケが同意する。

 ナンバース、アークスの両人の意見に、僕ら一般生徒はピンとこず首を傾げる。


「見張りがいない」


「あ……」


 言われてみればその通りだ。

 異界は危険な存在。だというのに、隠れ異界でもないのに見張りがいないのだ。


「まさか中へ吸い寄せられたか……?」


 師匠が顎に手をあて、深刻な表情で言う。


「もしくは、排除されたか」


 コースケは珍しく真面目な表情だ。


「歌世ちゃん。これは僕らが思ってるより危ない異界かもしれないぜ」


「わかってはいるんだけどね……誰かが解決しないといけないでしょ」


「歌世ちゃんらしくないなあ。こんな時に生徒を引き離すのが歌世ちゃんだと思ってたぜ」


「正味、この部の実力はナンバースの中位層より上なのよ」


 世も末だ、とばかりに師匠は言う。


「まあ、行ってみましょうか。様子を見れればそれでいい。危ないと思ったら、コースケ、コトブキ君、すぐに異界に穴を開けて」


「了解」


「わかりました」


 僕は息を呑んで一歩を踏み出す。

 光の渦の中に、僕らは吸い込まれていった。




+++




 視界が暗転し、普通の住宅街が視界に広がった。

 そして、優子は背筋が寒くなった。

 仲間達がいない。


 いくら探索科の訓練を受けているとはいえ、優子一人では殲滅力に限界がある。

 分断策に乗せられたか。

 失敗だった。そんな思いが胸に湧く。


 慎重に歩き始める。仲間を求めて。

 陽射しが眩しい。

 異界だと言われなければわからないほど、そこは普通の住宅街だった。


 壁に背を当て、慎重に進む。

 公園に辿り着いた。


 そのベンチにぼんやりと座っている少女を見て、優子は目を丸くした。

 君枝だ。

 帰らずの異界に行って行方不明になっていた優子の友人だ。


「君枝!」


 優子は、思わず叫ぶ。

 君枝はぼんやりとした表情で、優子に視線を向けた。


「ありゃ、優子?」


 間の抜けた返事だ。

 緊張が解けて、優子は泣きそうになった。


「ありゃ、じゃあないよ君枝。心配したんだから」


「そっか。この異界に来てからもう三日ほど経つか」


「食事とかどうしてたの?」


「ご馳走続きで太りそう」


 そう言って、君枝は茶目っ気たっぷりにお腹を叩く。

 優子は苦笑してしまった。


「帰ろう、君枝。皆心配してる」


 そう言って、君枝の手を取る。


「そうだね。三日間も帰らないなんて不良のすることだ」


 君枝は肩を竦めた。

 その時、優子の手首を取るものがあった。


「なにをしている」


 地獄から響くような声。

 声の主は、漆黒の炎に包まれた化物だった。


 思わず、手を振りほどき、後退る。


 化物の周囲に黒い渦がいくつも現れる。

 それは回転しながら優子に襲いかかった。


 優子は、僧侶のホルダーだ。

 回復を基本とするホルダーだが本人が探索科の訓練を受けているので肉弾戦闘も多少は可能とする。

 優子は杖を呼び出し、渦を一個一個丁寧に弾いていった。


 そして、あらためて構える。

 再び、黒い渦が化物の周囲に浮かぶ。


 おかしいな、と優子は思う。

 デジャヴを感じる。

 少し前にもこんなことがあったような、そんな気がしたのだ。




続く

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