暗躍する者
四天王マアクは魔王城の玉座の間に呼び出されていた。
片膝を付き、頭を垂れて魔王の言葉を待つ。
「ニムゲとデモンが破れた」
魔王の言葉に、マアクは衝撃を受けた。
二人共四天王。悪魔の中でも指折りの猛者だ。
「それも、同じ者達にだ。我々も対策を考えることにした」
「恐れながら、いかなる対策でしょうか」
「敵は聖獣のホルダー。少数精鋭で仕留める」
「少数精鋭、と言うと?」
「なに」
マアクは恐る恐る顔を上げる。
魔王は唇の端を持ち上げた。
「人間に協力してもらうのだよ。もし失敗してもこちらの懐は痛まない」
「人間に……?」
「そうだ。人間だ」
魔王の笑い声が城の中に響き渡った。
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「帰らずの異界?」
緑の言葉に、僕は戸惑った。
「あるらしいぜ」
緑は紙パックのジュースを片手に言う。
僕の隣の席に腰を勝手に下ろしている。
「なんでも幸せすぎて帰ってこれなくなるらしい」
「そりゃ、なんていうか……凄いね」
幸せすぎて現実に帰れなくなる。それほどの幸福なら一度体感してみたいものだ。
「県内にあるの?」
「あるらしいぜ。最近ニュースでやってる行方不明者は主にこれが原因らしい」
そういえば朝のニュースでそんな話題があったかもしれない。。
「帰らずの異界かぁ」
「一度行ってみたいよなあ」
「緑でもそういうこと思うんだ」
緑は肩をすくめる。
「不良になるってことはなるだけのストレスがあるってことさ」
「ふーん。例えば?」
「話すようなあ話でもねえ」
そう言って、緑はストローに口をつける。
「コトブキ!」
笹丸が教室の入り口から僕に声をかける。
「歌世ちゃんが呼んでるぞ」
「わかった。職員室だね」
「だな」
「じゃあ行くよ、緑」
「ああ、いってらっしゃい」
なんのようだろう。そう思いながら廊下を歩く。
師匠からの呼び出しなんて珍しいことだ。
「失礼します」
そう言って、職員室に入る。
師匠は自分の席に座っていて、ひらひらと手を振った。
「やあ、悪いね休み中に」
「いえ、なんの用ですか?」
「君の意見を聞きたいんだ」
「と言うと?」
「帰らずの異界に行ってみる気はないかい?」
僕は息を呑んだ。
まさにさっきまで緑と話していた異界ではないか。
続く




