願い
徹は、刀を鞘から抜きながら、七代目斬鉄からそれを受け取った時の言葉を思い出していた。
斬鉄は言った。
「これが私の作り得る最高の刀。藤吾を止めてほしいという思いと、貴方に海に誘われた時の浮き立つような気分を篭めて。大業物、潮風斬鉄」
七代目斬鉄の傑作と五代目斬鉄の傑作。どちらが勝るかはまだわからない。
ただ、不思議と冷静な状態にいる自分を感じていた。
藤吾は対象的に、楽しげに笑った。
「リベンジ野郎か。見苦しいぜ」
そう言って刀を振りかざしてこちらに駆けてくる。
徹は無言で潮風斬鉄を振るい、その刀を逸らせた。
藤吾が目を丸くして、数歩後退する。
「なんだその刀は。五代目斬鉄の傑作は全てを断つはずではなかったのか」
「例外ができただけのことだ」
そう言って、徹は軽く刀を振る。
風を切る良い音がした。
刀の持ち手は吸い付くようだ。
(七代目斬鉄。お前の想いは五代目と並んだぞ)
「なら、次善の策を取るまでだ。癪だから捨てようかとも思ったが。とっておいてよかった」
そう言って、藤吾はポケットから一枚のカードを取り出した。
それは、聖騎士のカード。
徹のカードだ。
それを、藤吾はカードホールドに挿した。
藤吾の気配が変わった。
聖なる風が吹く。
それは藤吾の邪念と反発しながらも、はっきりと主張してそこに存在した。
「自分が育てたカードに殺される。こんな面白いショー中々ないぜ」
そう言って藤吾は、刀を引いて突進した。
速い。
一瞬で徹の眼前に移動すると、藤吾は横薙ぎの一撃を放った。
徹は潮風斬鉄で受け止める。
体が吹き飛ばされかけるのをたたらを踏んで堪えた。
そうか。カードはこんなに育っていたか。誇らしさと焦りが心の中で入り交じる。
鍔迫り合いになり、徹は徐々に押されていった。
なんとか退きながら、逸らす。
藤吾は振りかぶって、次の一撃を繰り出そうとした。
その時、不思議なことが起こった。
藤吾のカードホールドと徹のカードホールドが共振を始めたのだ。
二つのカードホールドは輝き、何かを主張している。
「なんだ? なにが起こっている?」
藤吾のカードホールドに徹は着目する。
輝いているのは、カードを挿している部分だ。
「そうか。お前も戻りたいんだな」
徹はそう言うと、手を伸ばして念じた。
「来い!」
手の中にカードが現れる。
そのカードには、勇者の絵が燦然と輝いていた。
続く




