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Holiday.お祭りに行こう_01


 祭で賑わう王都の中心地。周囲のざわめきにかき消されないように、隣を歩くフィンリー様へ声をかけました。


「ほんとに賑やかですね!」


「え、あぁ、はい」


 丸まった背中とうつむきがちの頭は、きっとあまり周囲を見てはいないと思います。が、ついて来てほしいとお願いしたのは私ですから、文句は言いっこなしですね!


「あの串焼き美味しそうですね」


「えっ! ま、まだ食べ……あ、いや、どどどどうぞ」


「あははは! さすがに私もお腹きつくなってきました。では最後にあれをいただきませんか?」


「ファ、ファ、ファッジですね」


 私の指さした先を見てフィンリー様も頷き、出店へと歩み寄りました。


 お砂糖たっぷりの乳菓(ファッジ)にはレーズンがたくさん混ぜ込まれています。ほんのりミルクが香って食欲を誘いますね、お菓子は別腹とはよく言ったものです。


 フィンリー様はファッジを見つめながら眉根を寄せて難しい顔をしていらっしゃいます。


「もしかして、甘いものは苦手でしたか?」


「えーっと……。は、はい。すみ、すみません。せめてお茶かコココーヒーがあれば」


「ではお土産にカーラさんたちの分も買って、帰ってからいただきましょう」


 実はダンスがお上手なこと、細やかな気遣いをすること、お仕事がお忙しいこと、カーラさんに頭が上がらないこと。私はベイラール小公爵の意外な一面を、本当にたくさん知ることができました。今日はそこに「甘いものが苦手」を追加です。


 ファッジがたくさん詰まった紙袋を抱えて、もう少しだけお祭りを散策することに。


 軽快なステップでダンスをする人や、輪になってお酒を飲む人々、道端でボードゲームに興じる方、本当に様々です。でもみんなとっても楽しそう。


 通りの左右に並ぶお店をキョロキョロと見渡していると、視界の隅で何かがキラリと光りました。お祭りのために流れて来た露天商のようです。目を凝らして見ましたが、やはりキラキラ輝くものが並んでいる模様。


 ……気になります。


「フィンリー様、あっちに」


 最後まで言葉を発する時間さえ勿体なくて、私はフィンリー様を引っぱって露天商へ向かいました。好奇心を抑えられないのは悪い癖です。


 紺のビロードが張られた台の上には、革を編んだものや、木を磨いたもの、珊瑚……のように見えるものや、ガラスを磨いたもの、そういった雑貨が所狭しと並んでいました。


「これは……髪留めですね。こっちはネックレス。可愛いなぁ」


 実家から持ってきたなけなしのお小遣いでも、ひとつくらいなら十分に買えそうなお値段です。

 夫婦で初めてのデートですし、記念に何かほしい!


 光の加減で七色に光る小さな貝殻が、いくつもぶら下がったブレスレットを手にとって、フィンリー様に掲げて見せました。


「これとかどうですか?」


「どど、ど、どうとは……。もち、もちろんレイラさんならなんでも」


「うーん」


 いつも斜め下を見つめているフィンリー様に聞くのが間違いだったかもしれません。ここはやはり自分で選ぶしかないですかね。


 が、腕を組んで雑貨類とにらめっこをする私の手を引っ張って、フィンリー様が露店から引き離してしまいました。


「て、てっ、訂正します。レイラさんには、後日ちゃんとしたのを、お、おく、贈らせてください」


「えっ? いや、でも」


 今日という日の記念にと思ったので、後日じゃダメだと思うのです。それに、おねだりしたわけでは……。


「あ、貴女は、良いものを身に着けるべきだし、そっそ、そうするに足る素晴らしい女性、です」


 んーっ! 突然の、口説き文句じゃないですか!

 まさかフィンリー様の口からそんな素敵な言葉が出てくるとは、ちょっと、予想外です。虚をつかれすぎて、なんというか、頬が熱い……!


「は、はい……」


 なんでこんなに恥ずかしいんでしょう。ちらりと横を見れば、髪の隙間に見えるフィンリー様の耳も真っ赤になっていました。

 はい、無事、私、撃沈です。


 おかげさまで一体いつから繋いでいたのかわからない手が、急に気になりだしました。成人前の子供のようにぎゅっと握る手は、成人前の子供では有り得ないほどの大きさと力強さがあります。


 緊張しても、フィンリー様の白い手袋があるので汗を気にしなくていいのがせめてもの救いでしょうか。


 いえ、手袋に湿り気を感じ始めたらもうなんの救いにもなりません。

 何か自然に手を離す口実はないかと、今日という日の中でも最も素早く周囲を見渡しました。


 そんな中、人だかりができているお店がありました。ずいぶんと盛り上がっている様子。

 私はここぞとばかりに繋いでいた手を振り払い、歓声の沸き起こるお店を指さしました。


「フィンリー様、あれはなんでしょう?」


「ああ、ダ、ダ、ダーツですね。3本投げた合計点で、けっけ、けい、景品と交換でき……やりますか?」


 大きく頷く私の手を、フィンリー様がふふっと笑いながら取ります。私の左手はそのまま彼の右腕に導かれ、大人のエスコートスタイルとなりました。


 ホッとしつつも、意外な一面にやっぱり私の心臓がどっきりと跳ねてしまいました。


 いま、とても自然でしたよね。え、だっていつも指が不揃いでエスコートは苦手なのかと。いえ、あの、すごく素敵すぎて、……もー!




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― 新着の感想 ―
[一言] 隠れイケメンだ!
[良い点] またギャップ萌えか? 私は最近、フィンリーわざとやってるんじゃないかと疑っています。 普段のダサメンぶりは、ギャップでレイラを堕とすための演技なのではないかと……。
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