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Mission6.家に帰ろう_01


 お姉様の家出事件から夜が明け、事件は犯人死亡により情報局の預かりということになりました。そうです、発砲音は犯人が自死したもので、二人とも亡くなるという結果に終わったのです。

 そこで黒獅子卿がピストルその他の持ち物から、犯人の身元を調べてくださると。


 そして今。ほとんど眠れないまま、私と黒獅子卿は予定通り鉱脈近くへと足を伸ばすため、馬車に揺られています。


 マチルダは私が昨晩したためたフィンリー様宛の手紙の手配や、お姉様を狙った犯人に関する情報を集めるなどで別行動を。

 念のため馬車の周りは、黒獅子卿の部下が普段より多く警備してくださっているそうです。


「なんだか嬉しそうだな」


「あっ……。今朝マチルダから、早ければフィンリー様からの報せが今日明日のうちに届くと聞いて」


 私は遠方から早馬を出すような経験がないので知らなかったのですが、西部からシェラルドまで最速2日で報せを届けることができるのですって!

 もちろん、知っていたとしても高額すぎて利用することはできなかったでしょうけどね。


 黒獅子卿は吹き出すように笑いました。何かおかしなこと言ったかしら。


「あんなことがあったってのに、のんきなもんだ。怖くはなかったのか?」


「マチルダとフォーシル伯爵がお傍にいてくださって、怖いはずがありません。だってお二人ともフィンリー様が信頼しているって」


「随分と信頼してるんだな……小公爵が君を必ず守ると?」


 金茶色の瞳を(すが)めて見せた黒獅子卿の表情は、まるで私とフィンリー様の関係を知っているかのようで、ドキリとしてしまいました。


「夫を信頼できなくなったら、もう夫婦ではいられないではないですか」


 真っ直ぐに見返すと、少しの間を置いて鋭い視線が窓の向こうへと外されます。そこで会話は途切れたまま、馬車は目的地へと到着しました。


 スマートなエスコートで馬車を降り、領地を散策します。私たちの周囲を物々しい護衛が囲み、領民は怯えたような顔をしていましたけれど。


「レイラ様! 聞いたよぉ、昨日大変だったんだって?」


 物怖じしないおば様はどこにでもいるものです。ひとりが走り寄ってくると、興味津々にこちらを見ていた他の領民も数名、駆け寄って来ました。


「シャーロット様が誘拐されたとかなんとか」


「耳が早いのね! でもお姉様は無事だったし、今は屋敷も落ち着いてるのよ」


 お姉様は私への嫉妬心が高じて、詐欺師に騙された……というのが今のところの事件の見立てです。犯人の目的がわからないので詐欺師と断定はできないのですけれど。

 とはいえ表向きには男爵令嬢が誘拐されかけた、としています。外聞はとても大事ですから。


 誰もが黒獅子卿を見上げてじっと見つめます。


「そりゃ良かったねぇ! ……悪者は死んだって聞いたからどんな強面の護衛さんを連れてったのかと思ったら、なんだい、イイ男じゃないか!」


「フォーシル伯爵よ。この地域の噂について調査に来てくださったの」


「伯爵! 偉い貴族様を初めて見たよ、あとで旦那に自慢してやらないとね」


 敬意がこもっているとは思えない言葉に慌てて注意をしようとしたのを、黒獅子卿が密やかに私の袖を引いて止めました。

 おば様はそのままニコニコと話し続けます。


「噂って病気がなんだとか言うやつかい、全くアホくさいもんだね! みーんなピンピンしてるってのに。ほんとに病気なんざあるなら、甲斐性なしの旦那をやっつけてくれってねぇ!」


 ギャハハと笑うおば様たちに、黒獅子卿がふわりと微笑みながら気を引くように左手を上げました。


「あなた方の助力があれば、わたしは仕事で甲斐性を見せられると思うんだ。どうか助けてはくれないだろうか」


「なっ、そりゃいいに決まってるじゃないの。なんでも言ってみな!」


 いつも豪快なおば様たちが、ほんのり頬を赤らめて黒獅子卿の話を真剣に聞いています。たった一言で彼女たちの心を掴んでしまうなんて凄い。


 容姿の良さももちろん関係すると思うのですが、それ以上に彼の醸す雰囲気が相手の警戒を解くような気がして。そう感じるのは私だけかもしれませんけれど。ただこの空気感は、そうですね、どこかフィンリー様と通じるものがあります。


 フィンリー様も初対面からあっという間に懐に入ってくるような、そんな不思議な魅力をお持ちでしたから。


「そうねぇ……、けっこう時間経っちゃったから細かいとこ忘れちゃったけどホラ、部外者立ち入り禁止だって揉めてたことあったわねぇ」


 鉱山の開発を進めようとしていた時に、何か変わったことはなかったかというのが黒獅子卿の質問でした。


 おば様のこの発言を機に、他のみなさんもそう言えばと頷きます。


「あたしらにすればどいつもこいつも部外者だったけどね」

「あっ! そういえばさぁ、部外者だって言われてた人らの中で、ひょろーっとしたのいたでしょう。あの人を昨日見かけたのよ」


 お母様より幾分か若く見える、ふくよかな女性が鼻息も荒くそうおっしゃいました。私と黒獅子卿は目を見合わせ、そして話の続きを促します。


「広場のさぁ、あ、マーケットって言ったほうが伝わるかなぁ? そこでね、通行人捉まえちゃ『鉱山はどうなった』って聞いてまわっててさぁ」


 解説を求めるような視線を受け、私は黒獅子卿へ『昨日立ち寄ったカフェのある当たりです』と耳打ちしました。


「白髪交じりのダークブラウンで、無精ひげ。白っぽいシャツにベージュのベストを着た男か?」


「ああ、そうだねぇ。その人だ」


 黒獅子卿の問いに女性が首肯しましたが、そういえば私もその男性を見た覚えがあります。確か、カフェで黒獅子卿が注視していた人です。

 まさか彼が事件に関係しているのでしょうか。


 その後も辺りを散策して、領民からいくらかお話を聞きましたがこれといった収穫はなし。私たちは屋敷へ戻ることにしました。



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[良い点] オバちゃん達、TUEEE!
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