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「ねぇ、パパ。これ買っても良い?」
「?」
水族館も全て見回り、今居るのはお土産コーナーだ。パトリックからねだられたのはチンアナゴの抱き枕。
「別に良いけど、……ブフッ…。これお前よりでけぇじゃん。」
「っ!パパのバカっ!笑わないでっ!」
「………ねぇ、精神年齢同じなの?」
ヒーヒー泣きながら笑う大きな男とチンアナゴで男を叩く幼児という図。ソフィアが引いた目で「恥ずかしいんだけど…。」と距離をとるが、こんなん笑うしかないだろう。
――――ブーッ!ブーッ!…――――
「「…っ!」」
その時、脳内に緊急集合命令の警報がなった。
ソフィアと目を合わせると俺は左手に魔力を込め、通信を行う。すると手のひらから学園長の姿がホログラムの様に浮かび上がった。
「エイデン・デュ・シメオン、ソフィア・メイフィールド、一緒だったか。」
「クリフトフ学園長。いかがなさいましたか。」
「反魔導集団の過激派が首都でやらかした。科学者と手を組んで人工獣を作り魔導士の塔が襲撃されている。」
「あ?そんなん組合でなんとかしろよ。何で学生の俺らが。」
「魔法学園にもその人工獣が放たれた。」
「「…っ!」」
学園長の発言で俺とソフィアはお互いを見やる。
「今教師が総出で駆除に当たっているが、なんせ数が多すぎる。言ったように、塔も襲撃されているため組合の魔導士はこちらに来るのに時間がかかる。そのためロウワークラスの子は近隣住人の避難、ミドルクラス以上の子らで人工獣討伐に当たるのだ。至急学園へ向かいなさい。」
学園長は言いたいことだけ言い放つと、こちらの話も聞かずにブンッと通信を切った。
「おいっ!!…チッ!こっちの都合は無視かよ!」
「しょうがないよ。行こうエイデン。」
「はぁ!?こちとら休日だぞ…。教師どもで何とかしろよ…。」
「ミドル生も参戦してるんだから、私たちが行かないでどうするの?」
「……クソッ!……お前は役に立たねぇからパトリックと帰れ。」
俺はデートを邪魔された怒りと、人工獣と戦う気でいるソフィアへの怒りで思わずにらみつける。魔獣に対してもヒーヒー戦っている癖に、それよりも手強いであろう相手に何を言ってんだこの馬鹿は。
「…っ!またそれ!なんでエイデンはいつもそうなの?私だって役にたつわ。」
「無理。無駄。子守りでもしてた方がよっぽど役立つ。」
「私だってアッパークラスの学生よ?」
「それはお前の治癒魔法を買っての話だろうが。戦場じゃお前は無力なんだよ。」
「たしかにエイデン達ほどは動けないけど、私だって強くはなった。それに、私が居たら救える命だってあるじゃない!なんでエイデンはいつも私をのけ者にするのよ!」
「お前が居るだけで足手まといなんだよ!!!」
シーンと静まりかえる店内。ここが水族館内の土産屋だったことを思い出し、俺は語気を緩めた。
「…とりあえず…、お前はパトリックと帰れ。」
「……私だってエイデンのクラスメイトだもの…。」
「あ?」
「…エイデンの馬鹿。」
ソフィアはいうや否やその場から消えた。
「っ!…あの馬鹿野郎っ!」
あいつのことだ。学園の、しかも最前線へと行ったに違いない。俺は舌打ちするとしゃがんでパトリックへと視線を合わせる。
「おい。今からお前を家に飛ばすけど、敷地から出るなよ!」
「う…、うん…。パパ、ママは…。」
「大丈夫。俺が連れ戻す。」
「パパ…。」
「?」
パトリックが不安げな表情で俺の袖を掴んだ。
「今日だとおもう…。」
「…?」
「ママがケガするの、今日だとおもう。」
「…は?」
ソフィアが?怪我する?
「ママの背中、おっきなキズがある。」
「…!?」
「ママにきいたら、学校にまじゅうがあつまって、そこでケガしたんだって…。」
「…本気で言ってる?」
「パパが、コウカイしてた…。」
「?」
「ぼく、パパとママが仲直りするためにここに来たんだ…。」
真剣な眼差しを向けるパトリック。疑う疑わない以前に詳しく話を気く時間も無いし、情報として頭に入れておく事に損はない。俺は安心させるようにパトリックの頭を撫でる。
「…分かった。ソフィアの事は絶対守るから…。…詳しい話は後で聞く。…今言っておかないといけない情報は?」
「パパからのでんごん…。――素直になれって。」
「は?」
こんな時になんだその伝言、と思いながらパトリックを家へと飛ばす。
そして俺の行くべき場所は――、
「無事でいろよ、バカソフィア…。」
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