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食事も終え、俺らは再び魚廻りに戻った。なんと、ソフィアはデザートまで用意してくれてて、本当に何もかもが美味くて今日自分家のご飯食べられないかもって思うぐらいだった。
先ほどの余韻に浸りながら、魚ではなく手をつなぎながらキャッキャとはしゃぐ俺の(未来の)妻と子を鑑賞していると、暗い館内でコソコソと響く耳障りな声と不快な視線。
『あの子可愛くね?』
『でも、子連れじゃん。』
『姉弟かも。』
『行ってみる?もし行けたら俺らラッキーじゃね?』
『だよな。こんな上玉居ると思わねぇじゃん。』
『ガキはどうする?』
『どうにでもなるだろ。』
「何が?」
声の主に背後から声をかけるとビクッと男らの肩が跳ねる。
「なっ…、なんだよお前!」
「いや?面白そうな話してんなって思って。俺にも聞かせろよ。」
「お、お前には関係ないだろっ!!」
こんな家族連れやカップルが来るような場所に小綺麗にお洒落した男二人組。ナンパか女買いか。…場所から考えて奴隷商ではないだろうが、とりあえず分かりやすく動揺しているクズ共の肩を怒りに任せてガシッと掴む。
「――…お前らが視界に入れていい女じゃねぇんだよ。殺すぞ。」
「ヒッ…!」
「ま…、魔導士…!?」
圧をかけながら脅すと男らが怯えた表情を浮かべたが、そんなんじゃ俺の怒りは収まらない。
「ぐっ…!」
「お、おいっ!俺らは一般人だぞっ!こんなことしていいのかよ!?」
「魔導局に通報するぞっ!」
「すれば?」
ミシミシと音を立てる肩に、俺の腕から逃げようと男どもが藻掻くが手を緩める気なんてさらさらない。
こんな奴らの視界に入れてしまっただけでも、想像でも良いように扱われたと思っただけでも殺してやりたい衝動が起きる。が、――
『あれ?エイデンが居ない…。』
『ほんとだ…。パパ…?』
聴覚魔法がソフィアとパトリックの声を拾う。もっと痛めつけてやろうと思ったが二人が心配しているからここまでだ。それにこんな日に組合にぐちぐち言われたくもない。
「命拾いしたな。」
「ぐぁ…!」
「失せろゴミが。」
「あ!パパ!」
「ごめんね、エイデン。はしゃいで先に進んじゃった!」
「おー。ガキ二人の引率は疲れるぜ。」
「…いつもはエイデンの方が子どもっぽいのに…。」
「あ?お前ぇなんつった?」
「あれ?この人たち何してるの?」
パトリックの指さす場所を皆で見やると水槽に沈む男2人組。水槽の中で優雅に泳いでいる大きな魔獣の横でブクブクと沈んでいる。
「知らね。なんか抽選で当たったんじゃね?水槽に入れます的な。」
「…それにしては二人とも焦った顔で上に泳いでるけど…。」
「ぼくもお魚さんと泳ぎたい…。」
「職員焦って助けようとしてるけど…。」
「パフォーマンスだろ。」
「何の…?」
「…だから貸し切りにしようって言っただろ?そしたら水槽に入れたかもしれねぇじゃん。」
「………これだからお坊ちゃまは…。人がいるから楽しいんじゃない。」
「お前のその感性、絶対一生かかってもわかんねぇわ。」
「え~。」
「ほらほら行くぞ。男が泳いでるの見ても何も楽しくねぇ。パトリックも今度魚と泳がせてやっから。」
訝し気な目で見てくるソフィアに焦ったが、結局流されてくれた。話を戻される前に俺はパトリックを抱き上げソフィアの背を押し道を進む。
これだから貸し切りが良いんだよな。
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