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「わぁ~!綺麗だね~。」
「マ…、ソフィアさん!アレ見て!アレ!」
「わ~!おっきぃ~!!」
うん。天使かな?
今俺らがいる場所はというと、『水族館』である。海に住む観賞用の魔物や魚が展示されており、家ぐらいデカい魔物を見てはしゃぐ俺の(未来の)妻と子が可愛すぎて思わず魔水晶に記録した。
なぜこんなところに居るのかというと、ただ単にパトリックの要望である。ソフィアと水族館に行きたいと言われ断れる訳ないだろう。
手をつないで楽しそうに歩く二人は天使にしか見えない。
「ねぇ、エイデン魚獣のショーがあるんだって!先にそれ見に行こう?」
「おー…。」
マジで可愛い。
◇
「なぁ、そろそろ腹減んねぇ?」
水族館も半分見終えた辺りでレストランが現れた。レストランは全面ガラス張りで暗い雰囲気の中、ランプクラゲが泳ぎお洒落な雰囲気を作り出している。大人なムードなのせいか見渡す限りカップルが多い。
「そう?」
「ぼくまだ大丈夫。」
しかし、俺の期待を込めた発言に同意する者はいなかった。
「………チビらと違って燃費が悪ぃんだよ。」
(この綺麗な場所で一緒に食べたかったなんて死んでも言わん!)
「…でも、確かにそろそろお昼時だね。」
密かに荒んでいると、俺の心を知ってか知らでかソフィアがポンっと手を叩いた。
「私、お弁当作ってきたの!皆で食べない?」
「…!?」
その音を合図に現れたのは大きなバスケット。
え?今作ったって言った?…ソフィアが…?…手作り…?…おれの為に?
「食う!どこで食う?もうここで食べていい?」
「いや、流石にここはダメじゃない?」
レストランのことなどもうどうでも良くなった俺はソフィアのバスケットを預かり飲食可能な場所を探した。
◇
「~~~~!」
バスケットの中にはサンドイッチやローストチキン、パイなどが可愛らしく並んでおり、その中から一つ摘まみ上げ口に含むと幸せの味しかしなかった。
「シメオン家のシェフに比べたらこんなの大した事ないと思うけど…、どう?」
「マジ美味い。最高に美味い。可愛い。」
「え?」
「あっ!いやっ!女子って感じ!」
手作り料理を持ってきたソフィアが愛しくて何もかもが可愛らしく思えてしまって気づいたら口から本音が出てた。危ねぇ。
「ママのごはんいつもおいしい…。」
「ん?パトリックのママ?」
「「…!?」」
俺に引き続きパトリックまで口を滑らせた。幸い『ママ』=『自分』だと紐づいていないから良かったが。
「パトリックのママってことは、エイデンの奥さんだよね。シメオン家にはシェフがいるのにママはご飯作るの?」
「うん…。きばらしになるんだって。」
「へぇ。ママすごいね。お料理上手なんだ?」
「うん!全部おいしい!」
もぐもぐと色々な料理に手を付けながら『ソフィアは料理上手』という新たな情報を頭の中にインプットする。マジで何食べても美味い。
「そんなにおいしそうに食べてくれたら作った甲斐があったよ。」
「美味いもんは美味い。」
「エイデンもパトリックもいつも美味しいもの食べてるだろうから、実はちょっと出すの緊張しちゃったんだよね。」
(バカ言え。お前が作ったものなら炭でも食べるわ。)
「…また作ってくれる?」
「?」
パトリックがソフィアの袖を引き上目遣いで尋ねた。我が息子ながら末恐ろしい。その年齢で自分の魅せ方を分かっている。案の定、ソフィアは頭をぶんぶんと上下に振り、二つ返事で要望に応えた。
「もちろんっ!もちろん作るよ!何だって作る!」
「わ~い!…パパも一緒に食べようね!」
「…!……しょうがねぇな。…つきあってやるよ。」
「うん!ぼく、オムライス食べたい!」
我が息子は本当に恐ろしい。ソフィアの手料理を約束し、軽々と俺を仲間に入れ、俺の好物を作らせる。
――俺の喜ばせ方も知っている。
「…早く大人になりたい。」
「え?」
3人でソフィアの手料理を食べ、幸せに暮らしているであろう未来に思いを馳せた。
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