16
俺は焦って自分の魔力を探る。自分を探すなんて珍妙なことをするのは初めてだが、如何せん慣れた力だ。すぐに場所は特定できた。
「俺ん家…?」
俺は急いで未来の実家へ移動する。先ほどの話を聞く限り俺らの夫婦生活は順風満帆どころか仮面夫婦の如く冷えきっている。なぜそうなった?結婚したんだろう?明らかに俺はソフィアの事が好きじゃないか。――じゃあ、ソフィアは…?
余り変化のない実家にたどり着くと仄かな花の香りが鼻腔を刺激した。
(……ソフィアが花、好きだからか…?)
ところどころ飾られている花を眺めながら廊下を歩いていると、突如居間の方から爆発するかのように魔力の波が襲いかかってきた。思わず俺は足を止める。
「……は?」
「何の話して…、というか、ソフィア怪我して…――」
「見てっ!これっぽっちも傷ついてない!!」
ソフィアは|剪定鋏≪せんていばさみ≫を右手に左手を『俺』の目前に晒して声を荒げた。魔力暴走しかけているのはソフィアだった。
「…もういい。…もういいの。エイデン。…始めから責任をとってもらおうなんて思ってなかった。」
「?…何が…、」
「こんな関係続けるべきじゃ無かったのよ…。」
「っ…、…何言って…、」
「ごめんね、エイデン…。6年間もあなたを縛り付けてしまって…。」
「だから何の話をしてんだよっ!」
「私知ってるのっ!知ってたのよ!それでもソフィア・デュ・シメオンで居続けたの!でももう苦しい…!」
「…!?」
「この苦しさがこの場所に居続けた罪だとしたら受け止めるわ。でももうここには居られない…。」
「っ!…だから、何の話をしてるのか分かんねぇんだよっ…!………ッチ…、それより、ソフィア落ち着け。魔力が…――、」
「いつまでも学生の時の傷を負担に思わないで…。」
「は?…負担だなんてそんな…――」
「…もう終わらせよう、エイデン。あなたは自分の幸せだけを考えて…。」
「っ!…それ、どういう意味だよっ…。」
「あなたを解放してあげるってこと。」
「何意味わかんないこと言ってっ…!」
「お願いだから、私の事なんて見捨ててよっ!」
「おい‼ソフィアっ!…ッチッ!」
遂に魔力がソフィアの身体から一気に放たれた。屋敷の窓ガラスが粉々に散り、ソフィアを中心に突風が吹き荒れる。
『俺』は舌打ちすると一気にソフィアに近づきソフィアの頸に手刀を落とした。ガクッと力の抜けたソフィアは『俺』に支えられながら意識を手放す。彼女の魔力は『俺』によって抑え込まれ、彼女の中へと押し戻された。
シーンと静まり返る室内。ソフィアの身体を支えながらしゃがみ込んだ『俺』は、壊れモノでも扱うようにソフィアの閉じた瞳から流れた涙を掬いあげる。
「…何で…、何でだよ…。」
「…エイデン様…。」
ソフィアと額を合わせて悔しそうに、寂しそうに呟く『俺』の背後から執事長のレイモンが声をかけた。
「…出来るだけ早く窓を直して屋敷の中を元通りにしてくれ。…ソフィアに気づかれる前に。」
「かしこまりました。…奥様は…、」
「俺が部屋に運ぶ。…パトリックはまだ塔に居るな?…しばらく帰ってくるなって伝えろ。」
「はい。御意に。」
『俺』はソフィアを抱いて南側の一番日当たりの良い部屋へと移動する。パトリックが以前「ここがママの部屋」だと言っていた現当主の部屋だ。部屋へ入ると花の様なコロンの様な、とりあえず爽やかだけど甘いいい匂いが香った。
ソフィアをベッドへ横にすると『俺』はその横で項垂れる。
「……ごめん…。…おまえを手放すことだけは出来ないんだよソフィア…。………愛してるんだ…。…ごめんな、ソフィア…。…ごめん…。」
その何とも弱弱しい声に、我ながら情けなく思うが、以前パトリックが『俺』は『ソフィア』に好きだと言わないと言っていた発言を思い出し、本人が起きてるときに言えよと思ってしまった。
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https://www.alphapolis.co.jp/novel/228701778/530610766




