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第8話 ウルドとの契約

「僕は山を登って食料を獲ってくるよ」

「おい悠人、俺も荷物持つのを手伝うよ」


 今までずっと僕を見下してきた一条くんたち4人、カースト上位生が声をかけてきた。

 こんな時だからこそ学校での嫌なことを忘れて協力し合わないと。


 黙々と登り続けると中腹あたりで一条くんに呼び止められた。


「おい、陰キャの癖に随分と調子に乗ってるじゃねぇか。俺はなぁ、ここに来て神のお告げを聞いたんだ。選ばれたんだよ! この並列世界(いせかい)への入口でみんなの人生を決めろってな。お前は一番最底辺にしてやるよ! おいやれ!」


 なんのことだ! 何を訳わからないことを…… どこをどう見てもただの無人島━━「なっ」……一条くん……上加茂(うえかも)くん……砂川(すなかわ)くん……高橋(たかはし)くん……彼らが遠くなっていく……君たちの顔は……人間とは思えないほど醜い……そんな彼らの手によって突き落とされ人生を終えた。


◯。 ◯。 ◯。


 そんなことあったなぁ。その後に声が聞こえたんだっけ……『君は我ら神々の暇潰しに巻き込まれたひとりだ、選ばれし者の選択によって最底辺の能力で世界を生き抜きなさい』だったっけ。


 ははは、確かに数分で爆発に巻き込まれて死んだしなぁ。でもなんで急に思い出したんだろう。


『それはじゃな。過去を司る女神、ウルド様と同化したからじゃな。でもなんでじゃ!……せっかく解放されたのに相手が魔物だったなんて! 残念じゃ』

「はい? どういうこと? 声はするけど姿は見えない」

『頭の中なのじゃ、目をつぶれば見えるじゃろ。我の姿が!』


 あぁ、褐色のボディ、美しい銀髪ストレートの女性。


「3等身しかないけど……」

『精神体だからじゃな。主は我の依り代を探す旅にでるのじゃ。さすれば究極スキル《死者蘇生》を使えるようにしてやるのじゃ』

「えぇぇ、死者蘇生って死人を蘇らせるアレですか! やります! がんばります!」

『じゃあ契約するのじゃ』


 脳内に光の図形が描かれる、逆三角、菱形、円、星……《契約を締結します、よろしいですか?》


「はい!」


 逆三角の図形が女性の額に張り付いた。


《時の女神・過去が解放されたことにより、『死者蘇生』LV.1を取得しました》


『契約成立じゃ、過去神ウルドの復活じゃー! 残りは菱形と円と星の3(にん)を復活させれば契約終了なのじゃ』

「え、君だけじゃないの?」

『そんなこと言っておらぬぞ、時を司る女神は4人おるでな』

「そんなの……神というより悪魔みたいな……詐欺じゃないか」

『まぁ、我は半分悪魔みたいなものじゃ。褒め言葉として受け取っておくのじゃ』


 なんだ一体……とりあえずこの先のことは考えてないし、僕がこの世界で過ごす目的のひとつだと思えばいいかもしれないな。


「これで僕は死者を蘇らせることができるのか……各地を旅して奇跡を起こし崇められる的な?」


『正確には対象者の時間を巻き戻すスキルなのじゃ。レベルが高くなればそれだけ戻せる時間も長くなるぞえ』

「なにそれ?」


『考えても見ろ、本当に死人を生き返らせたら何でもアリになって世界が人であふれてしまうのじゃ。もちろん生き返らせることも出来るぞ。死んだ直後なら巻き戻せるのでな……病死はダメじゃがの~、時間を巻き戻したところでまた直ぐに逝ってしまうのじゃ』


 ウルドによると、過去にこのスキルを人前で使って生き返らせたことで、『死者蘇生』というスキル名になったようだ。


「ところでずっと気になってたんだけど、いつのまにか迷宮が広がってるんだけどどうなってるのここ?」

『それは最深部にあるべき迷宮、三角錐(その)力が(ぬし)に移ったことで、迷宮本来の姿を取り戻したのじゃ、我の肉体が最奥に眠っているでな」

「どんな所かちょっとだけ見に行ってこようかな」

『よいよい、本物の迷宮というモノを堪能するが良いぞ』


 この迷宮に何年もいたせいかここが実家のように思えてしまう。新しい部屋を見つけたら隅々まで探ってみたくなってしまうのが人情。


 ワクワクしながら奥へと進んで──スパッ!──


「ん? って、ギャー僕の手足が無くなってるぅぅ!!」


 目の前に僕の右手と2本の脚が静かに横たわっていた。

 やられたという認識を持つと、強い痛みが一気に沸き上がり、この姿になってから共にしてきた体の一部が切断された事実が思考回路をショートさせまくりながら暴れまわっている。


「くぇrちゅいおp@「あsdfghjkl;:」zxcvbんm、。・¥」


『|ちょっとそれ位で騒ぎ立てるでない《何か喋ってるけど耳に入らない→》|……|早くしないと本当に戻せなくなるのじゃ《何を言われてもそれどころでない→》』


「@ぽいうytれwq:;lkjhgfdさ¥・。、mんbvcxz」


『|仕方ないのぉ、手伝ってやるのじゃ《何か喋ってるけど耳に入らない→》……"死者蘇生"』


「あsdfghjkl;:;」──「あれ……ある? ……今のは夢?」

『ほら、戦うなり逃げるなりしないと次がくるのじゃ』


 一目散に逃げだした……「はぁ、はぁ……一体何だったんだあれ?」


 遠くにいた巨大なカマキリ(62)、頭上の『62』という数字は僕と同じレベル……何にやられたのかサッパリ分からない。


『当然じゃ、我が最深部に入れないようにしておってのぉ、少ない個体数の中で必死に食料を奪い合う中で生きぬいておる強者たちなのじゃ』

「すいませんでした、無理です。今回は辞退させて下さい」

『何を謝っておる、勝てないと思ったら身を引くのは当然のことなのじゃ。生きておればいくらでもチャンスはあるからのう』

「……なんかひとりじゃないって良いなぁ」

『ふっ、素直でよろしいのじゃ』


 これから僕がやるべきことは主に2つ、ちっちゃな過去神(ウルド)とした約束、4人いる女神をすべて開放すること……そのためには強くならなくちゃならない。


「この迷宮を出て見ようかな……でもこの姿じゃ街には入れないし……」

『それならいい案があるぞ、主は変化(へんげ)スキルを持っておるじゃろ。人形(ひとがた)になれば良いではないか』


 確かにウルドの言う通り。初めて使う『変化(へんげ)』、人形(ひとがた)をイメージして……「よし! 変化(へんげ)


 体の構造が変わっていくのが分かる。なんだかくすぐったい……


『ワッハッハッハッハッハッハ』


 なんでそんなに笑ってるんだ、初めてなんだから失敗くらいするって……って、なんだなんだ。前より視線が低くなっているぞ。


『ヒィー、ヒーなのじゃ。変化はのぉっほっほ、質量を変えることまではできんのじゃ。人形(ひとがた)は複雑じゃからのぅ、頭にしかなれなかったのじゃろう』


 くそぅ、知ってたな。確かに手足は動かないし体の感覚もない。「これじゃあ、生首として人を驚かすことしか出来ないじゃん、しかも髪の毛だけは長いし」


『言ったじゃろ、質量は変わらんと。主の体は髪が肩下まであって丁度いいというわけじゃろう』

「この生首だけじゃどうすることもできないって」

『良いスキルを持っているじゃろうて、『死者操作』で体を操りその首を乗せればいいだけなのじゃ』

()()()って……気持ち悪いんだけど……」


 内心いい案だ! と思ってしまったのは、人としての常識が薄れ、魔物としての価値観に侵食されているのかもだろう。


「まぁ、魔物の肉を食べたり人を倒したりしてればなぁ……」


『早速上層に行くのじゃ。あそこには迷宮攻略に失敗して討ち死にした者が多いでのぉ。中層じゃとそれなりの冒険者じゃから面倒なことになりかねん』


 時の女神ウルドを脳内に従え、上層に向かうのであった!


『こら! 女神を従えるとか言うでない!』


……時の女神の尻に敷かれながら蜘蛛レオンの旅が始まるのであった。




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