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第6話 師匠と弟子

 か、体が動く……「ネフィルム……そういうことだったのか。ずっと騙していたのか……」

 

 動き出した姿を見て、あわてふためくネフィルム、「ま、待て……俺もお前と同じように『魔物操作』で操られていたんだ。心にもないことを言わされてな」


「ネフィルムよ、堕天使のお主には『魔物操作』は効かんのじゃ。このスキルは魔物の特有な波動を用いるのでのう」


 悪かった! というような顔をしていたネフィルムの表情がどんどん悪どくなっていく……そうだ。出会ったときに見せたニヤリとした顔そのもの。


「バレちゃぁしょうがない。まぁいい、俺の強さ(パワー)を持ってすれば蜘蛛レオン(こいつ)どころかアウラ(おまえ)だって一撃で葬れるんだからなぁ」


 突進してくるネフィルム。でかい足音と地面の揺れ、そして悪童な表情からは演技を感じられない。


「くらえー」


 躊躇なく攻撃を繰り出してくるということはアウラが正しいのだろう。「(そこまでやるなんて)』無意識に小さく口をついてしまった。


 巨大な体から繰り出される拳、とても大きい……しかし見てからでも十分に避けられるスピードが僕にはある。


「さすがは蜘蛛レオン、速さだけは一級品だな。こんなこともあろうかと実践訓練を積ませてこなかったんだからな」

「そ、そうか……そういうことだったのか」


 ネフィルムは巨大な岩を投げつけてきた。……人族と戦った時の岩……あのとき助けてくれたのはすべて嘘だったのか。


 岩は僕を飛び越えて落下、大きく響く音と振動。

 もしかして、僕のことを考えたら外してしまった?

 次々と飛んでくる岩、一歩も動かなかったが直撃すること無く落下した。


「よし、これでお前の素早さを封じたな」

「えっ」


 僕を中心に取り囲まれている岩、考える間もなくネフィルムが大きくジャンプをして攻撃を繰り出した。


 もう避けられない……終わった……そうだ、僕には糸や瞬歩があったじゃないか。やっぱり経験って大事だな……モノにしてないから咄嗟の判断で選択肢に入ってこない……いや、ネフィルムを信じたかった感情のせいか……どちらにしてももう避けられない。


 ドガン━━


 あれ? 「生きてる?」


 空間歪曲から出ているアウラの手がネフィルムの拳を左手で受け止めていた。次の瞬間、アウラの右拳が空間歪曲越しに|ネフィルムの腹にヒット《はらパン》……苦悶の表情を浮かべて崩れ落ちた。


「ぐ、ゴォフォゴォフォ、なんだお前、法師の癖にそのパワーは……」

「何を言っておる、お主が弱すぎるのじゃ」


 腹を抑えて苦しんでいるネフィルムは、空間歪曲を使って逃げてしまった。「覚えてろよー」という捨て台詞を残して。


「アウラさん……疑ってすいません」

「まぁ、良いのじゃ。この迷宮の魔物を一匹でも救えたのじゃからのぉー」

「ありがとう……僕は一体何をしていたんだろう」


 正義のヒーローにでもなった気がした。ボッチだった僕がヒーローになれると思っていた。しかし……。


「そんなに自分を攻めるでない。そうじゃお主、我の弟子になれ。その行いに懺悔の気持ちがあるなら、ネフィルム討伐を請け負うのじゃ」

「ネフィルム討伐ですか?」

「あぁ、ネフィルムも言っておったが、我はこの神殿から出られないのでな。誰かに依頼せんとならんのじゃ。我にとってもいい出会いがあったということじゃな」


 良いのだろうか。その時その時の感情で物事を決めてしまって……それが元でネフィルムに騙された訳だけど……。


「弟子にしてください! そして自分の行いを見つめたい……。どこに正義があるのか見極めたいんです」

「良いのじゃ。お主は転生者じゃろうて、魔物なのに知能があるということはそういうことなのじゃろう」

「転生者ということが分かるんですね」

「正確には分からないのじゃ、ネフィリムが新しい贄を見つけたのを感知してのう。その贄の成長が早すぎるからもしやと思っておったのじゃ。転生者を持つ者は成長速度が高く、覚醒スキルの獲得率が高いのじゃ」


 そういうことか。『激運』と『転生者』で面白いようにスキルをゲットしていたのか。


 こうしてアウラとの特訓に明け暮れた。彼女は死霊法師を名乗っているが種族は竜神族(ドラゴニュート)、魔道士よりに傾いているが基本はドラゴン、そのパワーでネフィリムの軽くあしらったのである。


「見るのじゃ」


 アウラは僕の額にピタリと頭を付ける。プロジェクターで投影されたような映像が脳内に見えた。


「こ……これは……」


 下層の魔物を倒し続けるネフィリム、一通り倒したら喰らいはじめ残った死体は住処に持ち帰る。こんなのただの虐殺じゃないか……知らなかったとはいえ僕はこれに加担していたのか……。


「分かったじゃろ、ネフィリムは倒さなければならない存在である。彼奴を倒したら最深部の道を開けてやろう」

「最深部……ですか?」

「そうじゃ、我からは多くは語らん。行けば分かるのじゃ、我に認められた者としてな」



 そして数年の月日が流れた━━


 師匠であるアウラとの修練の日々も終わりを告げた。上がったレベルは15、レベル61まで成長したのである。


 レベル:61 

 スキル 糸:10(+2) 毒:8(+3) 瞬歩:6(+5)

     時空歪曲:3(+2) 異空間:7(+4) 激運:4

     死者操作:1 変化(へんげ):1

     ベルゼブブ:1


 把握しているスキルは9個、転生者は『転生者』というスキルも持っているらしい。もしかしたら頭上にレベルが表示されるのもスキルなのかもしれないな。


「それでは師匠、行ってきます」


 心がワクワクしている。人間だったときは、心から師匠と呼べるほどに尊敬できる人間はいなかったし、以前より充実した日々を過ごしているような気さえする。


「中学生の女の子っぽい姿じゃなければもっと雰囲気でてるのになぁ」


 頭上に現れる時空歪曲、僕が避けるよりも早く拳が飛んできた。


「聞こえてるのじゃ、帰ってきたらもっとひどい修練を課してあげるかのう」

「ごめんなさい……だって死霊法師が若い女の子な上にめっちゃ明るい性格って不思議なんだもん」

「まぁ、これは我の転生前に思い描いていた姿じゃからのぉ」

「えっ、師匠って転生者だったんですか」

「まぁ、そういうことじゃな。お主よりもっと前の時代にドラゴニュートに転生したオタクな女の子じゃ」


 いやぁ、ビックリ。転生先って人間だけじゃないんだ。もしかして記憶を持って生まれ変わっただけなのかもしれないなぁ……実はこの世界のルールはそれが普通で積んだ徳が多いほど偉い種族に転生できる的なやつだったりして?


 ◆ ◆ ◆


「なんで襲ってくるんだよー」


 ネフィリムの住処に向かっていると、次から次へと魔物に襲われる。ネフィリムと師匠の討伐に向かったときは逃げてたくせにぃ。 (トラノ イヲカル キツネ カ)


「何か変な感じだな。この迷宮の平和を守ろうってのに……」


 襲い来る魔物を倒しては喰らい倒しては喰らい。


《レベルが1上がりレベル62となりました》


 あっ、レベルが上った。久しぶりだなぁレベルアップ。どのタイミングでレベルアップするか分からないから本当に焦るよ。


 ━━ズドーン!


 上から巨大な人影が落ちてきた……ネフィリム(50)


『久しぶりだな、俺の住処に向かってるということは俺を倒そうとでも言うのか』

「良くも騙してくれたな、まぁおかげで師匠とも知り合えたし強くなれたんだけど」

『ハハハ、まぁお前を喰えなかったのは残念だが俺だってレベルアップしてるんだ。パワーの差でぶちのめしてやるよ』


 確かにネフィリムのレベルは上がっている。頭上の数字は50。僕が62となっているので、数字だけなら勝っているがステータスやスキルがどうかまでは分からない。


 蜘蛛レオンとネフィリムの戦いが幕を開けるのだった。

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