第44話 揺れる心、感じる想い
《王は竜人としての信念が見えていないようです。近衛兵も『またか』という感じでした》
竜人族のお家騒動に巻き込まれてしまったかと思ったが、特にお咎めなく解放された。 (キッカケヲ ツクッタノ ボクダシ)
──翌日、僕たちはスヴェルダール迷宮の前に立っていた。
「レム様、時の女神の情報を聞くことが目的じゃなかったでしたっけ」
そうなんだ。なし崩し的に入ることになってしまったがベルダンディは僕の中にいる。
「折角だから経験値稼ぎでもしていこうよ。シュリナとユーコもいざという時に自分を守れないとね」
ラグナロクでもらった『入場カードキー』を使って中に入った。有効期間は1カ月、どんな仕組みか分からないが魔法の力が働いているのだろう。
迷宮内の魔物はエアフィルダール迷宮と同程度のようだ。しかし、シュリナやユーコが単独で撃破できるほど弱くはない。
「ちょっとレム様、こんな魔物だらけの所で暮らしてきたんですか」
「前世でどんな徳を積んだんですか。わたしだってそれなりに良い転生先だと思ったのに」
と、蛇や熊、でかい蛙やバッタなどが襲い掛かってくる。迷宮ごとに魔物の生態は違っているようだ。
《ウルドの迷宮は素早さメインの魔物が多く、この迷宮は力で押す魔物が多いんです》
言われてみれば同じ魔物でも、ステータスの振れが違うというか……どうりで力一辺倒なのが多いと思った。
「ホーリーアロー」
シュリナは蛙の魔物を倒した。初めてひとりで倒したことに大喜び……たまたま当たったのが弱い個体だったことは黙っておこう。
ユーコは『転生者スキル』を持っているだけあってレベルアップが早い。いつの間にかシュリナに追いついてしまった。彼女はオークとして幼少期より鍛えられた槍が武器。ベルダンディの『或るべき姿』を使って硬化糸を槍先に接着したので攻撃力も随分と上がっている。
《レベルが1上がりレベル6となりました》
よしっ! レベルが上がった。
《変化が1上がりレベル7となりました》
おー、変化まで上がった……殴るにしても斬るにしても『一部変化』が役に立つ。腕を鋼化すれば攻撃も防御も出来るし、鋭化すれば切断までできた。
上層を踏破、中層に移動する。攻略中にキャンプの跡を見かけるのは、先行しているノブナガたちが通った跡だろう。
「僕たちも少し休もうか」
中層をはレベル30前後までの魔物が出没する。昔、両手足を切断した時に学んだが、常に弱肉強食の環境に身を置いている生物はレベルだけでは計れない強さがある。
《魔物は魔神が理を作ったと言われています》
ウルドが魔物が死ぬと宿る力が抜けて再構築されるようなことを言ってたな。その仕組みを作ったのが魔神ってことか。
《はい。アイムズ洞窟で戦った魔人、あれは悪魔族が生物の持つ魔粒素を暴走させてリミッターを外したモノです。時折、獣や魔物を魔獣化させて人を襲わせることもあります》
「ユーコさんが食料を異空間に収納してくれるから持ち運びが楽ですよ」
「お役に立てたのなら良かった。私だけ何もしてないようで心苦しいから……」
「何言ってるんですか、レム様の異空間には魔物の死体がいーっぱい入ってるんですよ。衛生上の問題はないと分かってても、そこから出たモノを食べるのに勇気がいるんです」
シュリナよ……そんなことを思っていたのか。確かに言われてみれば生き物の死体と食べ物を同じ場所で保管していたら気持ち悪いと思うかもしれないな。 (ナレスギテ キニナラナイケド)
「あーーーーーー!!」、シュリナが急に立ち上がった。口をパクパクさせて言葉にもならない声を出し始める「ゴフォ、ゴフォ。あぁぁ、異空間……獲得した!」
誰かが異空間から取り出す時に無意識に手を伸ばして触れるのが癖になっていたシュリナ、たまたま食べ物を出すユーコの入り口に触れた時にゲットしたようだ。
「「おめでとう (ございます)」」
「やったー、これでグフフ……薬草を沢山……収穫も出来るし隠せるし……ウッフッフ……。そうだレム様! サムゲン大森林に帰りましょう」
「はい? 急にどうしたの?」
「これはきっと神のお告げだと思うんです。この中にたくさん薬草を収納して、もっともっと勉学に励みなさいと……」
…………。えっと……「ユーコはどう思う?」
「私もレム様の街に行ってみたいです。私の生まれたオーク村はサムゲン大森林にありましたから」
「そうでしょそうでしょ、あそはシルフィード様の領域だからね、わたしたち鬼族は入ることが許されなかったのよ」
「おかげで私たちオーク族は平和に暮らせていました……みんなどうしてるんだろうなぁ」
シュリナとユーコで盛り上がってしまった。この迷宮が終わったら一度サムゲン大森林に戻って街がどんな風に成長しているか見に行ってみようかなぁ。
《レム、どうやら時の扉が宝珠によって開かれたようです。急いだほうが良いかもしれません》
なんだって……特に何もないだろうから急ぐことは無いかもしれない。が、早く行った方が良い気配がビンビンする。
「ふたりとも、話しは後だ。ノブナガが時の扉を開いたらしい。急ぐよ!」
襲い来る魔物を、ベルスパイダーで喰らいどんどん進んで行く。チラリと浮かぶ『その地を守る者』の存在……ドライニアさん元気かなぁ。
《レベルが1上がりレベル7となりました》
やはり迷宮で戦いまくるとレベルアップが早い。それにアウラと再戦していかに経験不足かも分かった。そう、僕は種族を纏める主となったんだ……何かあった時にみんなを守れないとダメなんだ。
《レベルが1上がりレベル8となりました》
よし決めた! この迷宮が終わったらひとりで出来る所までやってみよう。もっともっと経験を積んでいい街を作りたい。力なき理想はただの妄想に過ぎないんだから。
《素晴らしい決断です。人から言われて成り行きでなった主はただのお飾りです。自分の意志をもって上に立たなくては、いつかは綻びがでるでしょう》
「レム様、行き止まりです……何かはめる穴がありますが」
「ここか……この穴に時の宝珠をはめるんだな」
「この奥で誰かが戦っているようです。片方はノブナガの声……相手は……女性の様です」
《その穴に拳を入れて下さい》
ベルダンディに言われるがまま拳をはめる。すると一瞬白く光ったと思ったら扉が半透明になった。
「いくよ」
ふたりを連れて奥へと進んだ。近づく金属音、戦闘が行われているのがハッキリ分かる。
「ミサキ、奥にいる王女を捕えるんだ!」
ノブナガとセイヤがひとりの女性と戦っている。その奥には立ち尽くしている少女がいた。女性はなんとかノブナガたちの攻撃を受けてはいるが、ふたりを同時に相手にするのは辛いようで所々に傷を作っている。
「絶対に姫には指一本触れさせんぞ」
「マチルダ、もう良いわ。あなたに無理させるくらいならあの方に嫁ぎます」
セイヤが中心となって戦い、ノブナガはアウラ戦で見せた3つの目玉から光線を放っていた。
「ウグッ……」
光線がマチルダの肩を貫いた……出血する右肩を必死で抑える。王女が駆け寄って必死に回復魔法を当てているがあまり効果は見られない。
「ノブナガ、もう止めて。私があなたの妻になるんでしょ。そこまでやることないでしょう」
見かねたミサキは、ノブナガの前に立ち塞がった。
「何かを勘違いしてないか。最初はそのつもりだったが、時の女神を宿す可能性のある、そのセレンを正妻に迎えることにしたんだ。おまえはただの妾、いや、誰か欲しいやつにくれてやるか」
ノブナガの勝手な言い分に腹が立ち、出て行かずにはいられなかった。




