第41話 ダルメルカ王国、ミネラル王の苦悩
「私が妖精だということは誰にも話していないんです。なんでもしますから内緒にして下さい」
ユキナは妖精族のひとり、1年前まで妖精の村に住んでいたが、育成勇者の名前が聞こえてきた。その名が同級生たちの名であったことから、人化して会いに行ったことが全ての始まりだったようだ。
名前を広めたのは一条の罠……『転生』スキル持ちを集めて成り上がることが目的らしい。ノブナガこと一条は同級生たちに指示をして、各国で依頼や問題を解決し恩を売って回っていたのだ。
名前に釣られて訪ねてきた同級生を確保すると、逃げられないようにペアを組まされ、片方が逃げたらもう一方を殺すと脅されて言われるがままだと教えてくれた。
「妖精族は人族にとって研究材料なんです。知られたら体の隅々まで調べられて殺されてしまう……そんなの嫌です」
いや、真面目な話しをしているのは分かる……ふざけちゃだめなんだけど、彼女の言葉にあらぬ妄想が頭を巡って仕方ない。
「花音さんはなんでバレる危険をおかしてまでこんなことを?」
「妖精族は定期的に森の加護を受けなければ生きていけないんです。その為にはどうしても抜け出さないといけなくて……」
「分かった。絶対に秘密にする……僕とユキナだけの秘密にしておくよ」
「ありがとう……もし逃げられることが出来たらお礼をさせてもらわ」
ユキナは妖精の姿に戻ると、隠れるようにヒラヒラと飛んで行ってしまった。
ダルメルカって竜人族の街って言うくらいだからドラゴニュートと関係があるのかな。
《このダルメルカは7人いるドラゴニュートを神として信仰する国なんです》
なるほど……アウラって死霊法師が僕の師匠なんだ。ウルドを開放するときに随分と助けてもらってね。
《竜王ですね。もともとわたしの守護者だったのですが、姉さんがアウラと賭けをしたようで、解放されるまで守護者として縛り付けられていたようです》
それでウルドを開放したらさっさといなくなっちゃったんだ。
《それもあってわたしを鬼族のパイリンに任せた訳です。もしかしたらアウラはこの国のどこかにいるかもしれません》
出来るものならまたアウラに会いたいなぁ……強くなった僕の姿を見てもらいたい。そう思うのは師匠として尊敬しているからだろう。
街中に戻ると、ひと際住人の注目を集めている女の子がいた。
「シュリナ!」
慌てて駆け寄ると一目でその理由が分かった。両手に山ほど抱えた植物類、満悦の表情を浮かべているその顔。
「あ、レム様。どうですかこれ? 両手いっぱいの薬草の匂いに囲まれて天国にでも来たようです!」
「私も半分持つって言ったのですが断られてしまって……荷物もちさせて、いじめてるみたいじゃないですか」
むくれるユーコ、こんな表情を見せてくれるのは、双方の信頼が深まったようでなんだか嬉しい。
「ユーコ、後でゼヒニオヨバズ時代にどんなことをされていたのか教えてもらっていいかな。僕もみんなの開放に協力したいんだ」
「急に何かあったんですか? ……レムさんが協力してくれるなら心強いです!」
内心はゼヒニオヨバズの中で悪い扱いをされていたのはユーコだけだったのかも……という心が少なからずあった。それに、開放されてもあれだけ顔が売れていたら普通の生活なんて出来ないのではないだろうか。
ユキナのことで確信した! 一条くんの魔の手からゼヒニオヨバズを救い出す必要があると。助け出して行く所がなければ僕の街で保護すればいいだけ。
《レムは最近人間味が増してきましたね。守るべき者とそうでない者をハッキリ選別しているようです》
確かに……。何があってもエアフィルダール迷宮からやり直せばいいや~。という精神的な逃げ道があってこそだろう。
《いいじゃないですか。この世界は弱肉強食が根底にあります。レムがどう思うのか……何が善悪かを判断する倫理基準はひとそれぞれです》
帰る場所があるしひとりじゃないってのは本当にありがたい! 「よし、それじゃあ城に向かおう!」
王城へはすんなり入ることができた。全てはシュリナのおかげ、鬼族の姿だと額に伸びる2本の立派な角は族長の血筋である証なのである。
城内は、アニメで見る厳かな雰囲気漂う場所、王の間の到着すると、1段高くなった所で背もたれの長い椅子に座って堂々たる表情で構えている王がいた。
「私がダルメルカ国王、ミネラル・ダルメルカだ。パイリン殿の孫が訪ねてくれるとは嬉しいのぅ。して、パイリン殿はご息災かな」
「パイリンの孫、シュリナと申します。祖母も元気に里を取り仕切ってます」
「そちらのふたりも鬼族かの?」
ミネラル王は肘置きに体を預けると、頬杖をついてこちらを見つめた。
「いえ、この方は|パイリン族長と鬼族を配下としたレム様、こちらはゼヒニオヨバズを抜けて仲間となったユーコです」
「なんと! あのパイリン殿が主を取るとは……てっきりシュリナの侍女かと思ったぞ。それにユーコ殿まで一緒とは……面白い組み合わせだな」
「ダルメルカ王、僕たちは『時の女神』を探しています。何か知っていることがあれば教えて下さい」
顔色が変わった。絶対に何かを知っているやつだ。
ミネラル王は側近に目配せをすると、側近ひとりを残して王の間を出て行った、初めて見る人払いシーンに思わず興奮してしまった。
「この国は『時の女神』のひとりを守護しておる。年に1度、闘技大会が行われ優勝者には『時の宝珠』というスヴェルダール迷宮最下層への扉を開く鍵が授与されるのだ」
「と、いうことは最下層に時の女神が封印されていると……」
「う、うぅむ。そういうことになるな」
今、めっちゃキョドったぞ。ここに封印されているべきベルダンディーは僕の中、既にその迷宮に彼女がいないことを知っているのだろう。 (オウサマ ダシ)
「その宝珠を俺たちが持っている限り、一生『時の女神』の開放はありえないということだな」
無作法に王の間に入ってくる男──ノブナガ!
「優勝者にはその宝珠を授与せねばならん。それまでに返してはもらえないだろうか」
「返すと言っているだろう。ダルメルカの王女と引き換えにな」
「うぐ……。それは……本人が嫌がって……なんとか王女に嫁ぐように説得しておる」
ノブナガは、腰に刺した刀を抜刀すると床に突き刺した。
「王よ、いつまでも嘘が通用すると思うな。セレン王女は行方不明なのであろう。我が商会の情報網を甘く見るでない」
「なんと……知っておったか。しかし、宝珠とセレンを交換するという条件のはずだ、そのセレンを見つけ出せばコトがおさまる」
「まぁ良い、攻め立てたところで何も変わらんからな。まだ探してない場所が1か所だけあるだろう」
「ノブナガ殿はどこまで知っておるのだ……迷宮への立ち入りは闘技大会で認められた者しか入ることはできん……たとえ王族であっても……」
「その闘技大会で優勝して俺が探し出してやる。そうすれば素直に后になるしかないだろうからな」
ノブナガは、ニヤリとすると「ワーハーッハッハッハ」という織田信長のような笑い声とともに去って行く……そこに、「一条くんはミサキちゃんと結婚するんじゃないの?」とユーコが大きく声をあげた。
「あぁ、そのつもりでおったがな。セレン王女を正妻にすることにしたのだ。ミサキはいわば側室、妾だな……それとユーコ。次に俺のことをその名で呼んだら殺すぞ」
ギロリとユーコを睨みつけると城から出ていってしまった。
「王様、なんでノブナガに従う必要があるんですか? この国の宝珠なのであればノブナガがそれを奪った盗人じゃないか」
「宝珠は何者かによって盗まれ巡り巡ってノブナガが手に入れたことになっている。奪い返せばアーメルダへ敵対行動をとることになるのだ。それだけは絶対に避けなければならん」
「誇り高き竜の血を引く我が一族、たとえ争いになって命を落とそうとも国のために死ねるなら本望です。セレン様ひとりに全てを背負わせるくらいなら我らも一緒に背負いましょう」
残された側近ひとりが声をあげた。
「ならん……この国を……民をひとりも犠牲にすることは許さん。セレンには申し訳ないがこれも王族に生まれた宿内なのだ」
ダルメル王は強く拳を握りしめた。そんな王の姿を側近は無表情で見つめていた。




