第4話 ユマ・エリンと仲間たち
《激運が1上がりレベル2となりました》
《瞬歩LV.1を獲得しました》
《時空歪曲LV.1を獲得しました》
《異空間LV.1を獲得しました》
━━瞬歩:移動係数を0に近づける。速度はレベルに依存する。
━━時空歪曲:空間同士を繋げて移動できる。距離はレベルに依存する。
━━異空間:自分専用の空間を作り出す。容量はレベルに依存する。
って、瞬歩と時空歪曲の違いってなんだ? 早く着くか、遠くに行けるか?
『今のは時空歪曲というスキルだ。空間同士を繋げてある程度の距離を移動できる。他に瞬歩という短距離を一瞬で移動できる戦闘向きのスキルがあるが俺には向かないのか獲得できんな』
「凄いスキルですね!」
そうか、わざわざ疑問に答えてくれてありがとうネフィリムさん。
『この世界ではスキルに触れた時や学んだ時に獲得抽選が訪れるんだ。運をあげるスキルを持ってると獲得しやすいって聞いたことあるぞ。もしかしたらそのうち俺のスキルに触れて何かを獲得するかもな』
ま、まさしく今それが起きてますぅ……いきなりスキルを獲得したもんでビックリですよ。ってか、ネフィリムは僕の心を読んでます? あれ?っと思った疑問を解消してくれるんですが。
なんだか楽しくなって体が震えてくる。
『そんなに震えるな、今のお前ならそうそう人間なんかに負けることはないだろう』
「戦ったことがないから自分の強さが分からなくって」
『ハッハッハ、もっと自信を持て、本来なら進化してもおかしくないレベルなんだがな。色々すっ飛ばしてるからだろう。ほれ、下を見てみろ』
見下ろす先に|4人《30,25,26,24》、一際目立つ服を着た女性を守るように男たちが辺りを警戒しながら歩みを進めていた。
「本当にいるんですかねー蜘蛛レオンなんか」
「ああ、確かな情報だ。この迷宮の下層に巣があるって話だ」
「エリン様、1匹でも捕らえれば俺ら大金持ちっすよ。あの糸は金になります」
「バカ言うな、金などいらん。私は蜘蛛レオンの持つ経験値が目的だ」
聞いている限りだと、この世に蔓延る魔物討伐を主の目的としており、効率よく稼げる蜘蛛レオンを探しながら魔物を倒して経験値を稼ぎレベルを上げるために洞窟に潜っているようだ。
『あんな人間なら今のお前でも余裕だろ。ちょっくら行って倒してみろ』
えっとぉ……あの女性、頭上に30とか書いてありますが……他は25,26,24。僕のレベルは25ですから。
「うん、無理」
『大丈夫だ、蜘蛛レオンは同化スキルを持っているだろ。姿を隠して後ろから毒でも流してやれ』
ネフィリムにガッチリ掴まれる。次の瞬間、「うぁぁぁ」思いっきり放られた。僕は同化スキルを持ってないんだぁぁぁ。
「おい、いたぞ!」
ちょっと待ってよ。そこいら中に蜘蛛レオンいるじゃん……みんな同化スキルで隠れているのか。頭上の数値だけしっかり見えてるぞぉぉぉぉ。
男たちに取り囲まれた。エリンと呼ばれる女性は離れたところで魔法の詠唱を始めている。
「ちょ、ちょっと君たち。僕は悪い魔物じゃないよ、テヘ」
かわいこぶって一生懸命に訴えかけるが伝わっている様子はない。ただ、迷宮内に反響した僕の鳴き声だけがこだまする。
「行くぞー、自称の必殺技」
風のように疾く迫りくる男をひょいと避ける。
「おい、こいつ俺の必殺剣を避けるなんて強いぞ」
あっぶねぇ。あんな攻撃もらったら死んでしまうぞ。とりあえず避けることはできそうだ。避けて避けて避けまくるしか無い!
「みんなどいて、ファイアーフレイム」
扇のように広がる炎、逃げ道が塞がれていく……あ、熱い。
「エリン様、ナイスです。蜘蛛レオンは炎に弱いですからね」
そうだったのか、だったら……「えい」
氷柱石に糸を巻き付け上空に脱出を試みる。
「ファイアーボール」
放たれた炎の玉が糸にヒット、糸は溶け宙空に投げ出された。
「よし、蜘蛛レオンの素早さを奪った。みんな、落ちてくるところを串刺しにするぞ」
下に待ち構える3人の男、遠くでは不測の事態に備えてかエリンの周りに魔法陣が出来ていた……いつでも魔法を撃てるってことか……終わったな。
「短い人生だった……」 (チーン)
蜘蛛レオンとしての人生を諦めた瞬間、どこからともなく飛んでくる岩石が氷柱石にヒット、巨大な崩壊音とともに沢山の氷柱石が落下し、下で待ち構える者たちに突き刺さった。
『いまだ、噛みつけ』
糸を使って間合いを詰め一気に3人に噛み付く、既に立ち上がるのもやっとの状態なエリン、既に魔法陣は消え失せていた。
男たちの苦悶の声、エリンに糸を巻きつけようとした瞬間だった。
《『糸』のレベルが1上がりレベル6となりました。それにより『糸』に火耐性を得ました》
なんじゃそらー、もうちょっと早くレベルが上れば全然問題なかったじゃーん。
「瞬間移動──」
エリンの言葉とともに生まれた光りが彼女を包み込むと吸い込まれるように消えてしまった。それを見届けたのかネフィリムが『時空歪曲』によって下りてきた。
『やったな、人族は経験値が美味しいからな。ひとり逃したが3人倒せれば十分だろう。お前の毒であとは勝手に死ぬから待ってろ』
ネフィリムはドカンと座り込んだ。悶え苦しむ男たち……なんだろう、僕を襲ってきたからなのか蜘蛛レオンの本能なのか罪悪感はない。
「な……なんで魔王堕天使ネフィリムが上層にいるんだ……グハッ」
《レベルが6上がりレベル31となりました。『毒』が2上がりレベル3となりました》
『おっ、レベルが上ったか? 宙に放られた時、瞬歩スキルを持ってたら形勢逆転できたんだけどな』
いくら強いスキルを持っていても使わなければ宝の持ち腐れ……。
ゲームでエリクサーとかレアアイテムを出し惜しみして使わないままクリアしてたなぁ……そんなことを思い出してしまった。
「初めて戦ってみて実戦経験が大事だってことが分かったよ」
『ずいぶんといい面構えするようになったじゃねぇか。話し方にも余裕が出てきてる。そういえば人族は死に際に何か言ってなかったか? どうも俺は人語が良く分からん』
「ネフィリムがなんでこんなところに……って言ってたけど」
そう、彼らはネフィリムを魔王と言っていた。『喰らう者』を隠していることといい、自分を偽ることといい、ただ僕に教えたように隠しているだけなのか。
『そうか、迷宮を荒らしに来る人族を屠ってるからか有名になったんだな。まぁいい、とりあえず帰るぞ』
その後、僕は今まで通りネフィリムが獲ってきた魔物を喰らい、糸と毒スキルを中心にレベルを上げていった。
理由はないが瞬歩や時空歪曲をネフィリムに知られないようにした方がいい気がして隠すことにした。異空間スキルだけは、ファンタジーで良くある異空間収納的な役割を持つスキルだったので、『ベルゼブブ』スキルに統括された回復効果を期待して魔物肉をちょろまかしていたのだ。
━━そして時は流れた。
やはりレベルが高くなるにつれてレベルアップがしにくくなる。それを察してかネフィリムは『この迷宮じゃあそろそろかな』と呟いた。
→蜘蛛レオン:レベル46
糸LV.8 毒LV.4 異空間LV.3 激運LV.3 ベルゼブブ
瞬歩LV.1 空間歪曲LV.1
とりあえず僕が把握しているスキルはこんな感じ。
何やら元々持っているスキルもあるようだが詳しくは知らない。『激運』はレベルが上って初めて持っていることを知ったスキルだから他にもあるかもしれない。
ネフィリムの数字を見ると48。さすがにあれだけ獲物を狩ってくれば獲得した経験値も膨大だろう。しかし1しか上がらないことを考えると本当に苦労しているようだ。
そしてネフィリムが倒すべき相手との戦いに臨むことになるのだった。