第38話 ゼヒニオヨバズ、イコマキツノ
「ノブナガ、どういうことだ! だましたのか」
ガラス越しに強く日差しが差し込むノブナガ商会の一角、犠牲になったふたり、ユーコを殺そうとしていたことに声を荒げてしまった。
「間違った情報を信じて依頼に出してしまうことだってある。今回はたまたまそうだっただけだ」
声を荒げたせいか、スタッフや育成勇者がパ集まって僕たちを取り囲んでいた。
剣盾の勇者、マモル
弓の勇者、レイカ
槍の勇者、ケイゴ
術の勇者、マーライ
そして、この組織を取り巻く総大将、ノブナガ《48》
ノブナガ、マーライ、マモル、ケイゴ。この4人は僕を崖から突き落とした張本人である転生者だ。
「レム様、蜘蛛レオンがいなかったのは申し訳なく思います。しかし不測の自体が起こることだってありえます。報酬はきちんとお支払い致しますので、ここは怒りを抑えてもらえませんでしょうか」
直接依頼を説明したミサキが深くお詫びをする。どう考えても納得できない……それならせめて彼女だけは助けてあげたい。
「では、報酬としてユーコをもらおうか。それが彼女のためでもありそっちにとっても都合がいいんじゃないか」
含み笑いとともにノブナガに怒りをぶつける。ノブナガは迷うこと無く口を開いた。
「良かろう。俺たちが作ったアイドルグループの一員を手放すのは不本意であるが仕方ない。それほどの迷惑をかけたということで譲ってやろう」
ノブナガはそう言うと、ミサキに「新しいアイドル候補を探すんだ。頼んだぞ」と出口に向かって歩き出し、その後を追って育成勇者たちも建物から出ていった。
「ユーコちゃん、大丈夫だった? ケガはない?」
ユーコの元に歩み寄るミサキ。「本当に無事に帰ってきてくれて良かった」と胸を撫で下ろしていた。
ミサキは今回のことは知らされておらず、ノブナガ商会の持つ情報網にミスが起こるなんて考えられないし、ミスであれば烈火のごとく怒りだすノブナガが冷静であったことも解せないようであった。
「ミサキちゃん、絶対に私がみんなを救い出すからね!」
「フフフ、高校生の時と逆になっちゃったわね。みんなの前に出るとダメダメになる緊張屋さんだけど、本当にあなたは友達想いね。でも気にしないで、私たちはこうなる運命なんだから……ユーコちゃんは普通の幸せを手に入れるのよ」
泣きながら抱き合うふたり、これまで自らの意思でノブナガに仕えていたと思っていたミサキ……複雑な事情があるのかもしれない。……あれっ、確かノブナガはミサキのことを婚約者って言ってたような。
集団で黒ずくめの男たちが入ってきた。平均レベルは25、負けることは無いだろうが騒ぎを起すことは避けたい。
「ユーコ、後のことは改めて考えよう。今日のところはひとまず引き上げるよ」
後ろ髪を引かれるようにチラチラと振り返るユーコを連れて宿屋に戻るのであった。
=====
(ノブナガ商会 会議室)
「ノブナガ様、魔人バラクスが部屋から消えています。人間のものと思われる血が多く残されており、依頼を受けた冒険者のものかと思われます」
「……『喰らう者』……か、あのレムという女の素性を調べるんだ。それと監視をつけるのを忘れるなよ」
「ハッ、必ずや良い報告をノブナガ様に」
「俺はダルメルカに行ってくる。なんとしてもセレン王女を后に迎え、時の女神を手中におさめるのだ!」
=====
「大変でしたねレム様」
言葉とは裏腹にニコニコ顔のシュリナが目の前にいた。手には大量の薬草を抱え部屋中に薬気臭と食べ物に匂いが混ざり合っていた。
「こんなに多くの食べ物どうしたの?」
「はい、薬草を漁ってたらポーションが作りたくなって、錬金術のお店で作って売ったんです。ほらっ」
渡された革袋、これって持って行った時よりお金が増えてるんじゃないか。
「宿代も1週間分払っておきました。3人部屋になるので明日はお引越しです」
「えっと……」──まるで分かってたかのような有能さだ。
「ユーコさんの分です、昨日の話しを聞いたらほっとけなくて……でも、良かったです。仲間になったんですね」
ユーコは涙を流して喜んでいる。嗚咽を上げながら「なんでもやります! よろしくお願いします」と顔を伏せた。
「ユーコさんにお願いしたいことがあるんです……この街を出る前に一発華を咲かせませんか」
「どういうこと?」
「折角化粧の準備も出来ましたし、レム様に衣装を作ってもらって3人で一度きりのアイドル活動をしてみましょう」
いや……なんでそんなにノリノリなんですか。僕がアイドルっておかしいじゃないか……男だぞ。
《いいじゃないですか、どちらの性別にもなれるんですから。ただ胸は大きくできませんけど》
さらっと酷いことを言ってくる? って、胸の事を言われて酷い思考になるということは女性的な感性が芽生えてる? 男ならそんなこと言われてもなんとも思はないはず。 (ワナワナワナ)
「衣装は……素材も何も……って、そういえば蜘蛛レオンの糸が生地に向いてるって言ってたな」
「はい、蜘蛛レオンの糸は最高品質です。素晴らしいものが出来上がります」
なんだかユーコモノリノリになっている気がするんだが……やるしかないかなぁ。
「糸の色付けはわたしに任せてください。蜘蛛レオンの糸を染色するのは初めてなので少し実験用にもらっていいですか」
蜘蛛糸を10メートルほど手渡した。
「実験用にこれで足りる?」
「思ったより太くて立派ですね……それにしても美しい……これを普通の蜘蛛糸かわりに錬金術の材料にしたら…… ブツブツ」
「ちょ、とりあえず今回は染色を頼むよ、あ、そうだ。これってうまく使えないかな」
取り出したのは鋼化糸を1メートルほど。放出するときはイメージ通りの糸として生成されるので湾曲させることが可能だが、切ってしまうとめちゃめちゃ固い。
「こ、これは……わたしには曲げられません。ちょっと色々と試してみます」
目を輝かせて隣の部屋にシュリナは行ってしまった。
「結局、やることになったね。ユーコは良かったの?」
「はい、失敗してもミサキちゃんたちに影響は出ないでしょうし、成功すればミサキちゃんたちの仕事が減って少し楽ができるかもしれないじゃないですか」
仕事が減っても大丈夫なのだろうか……まぁ、活動していた人が言うんだから問題ないのだろう。
こうして僕たちは、決行日に向けて準備を進めるのであった。
◆ ◆ ◆
「とうとう完成だー!」
機織りスキルMAX、最高過ぎる! 今まで見てきたアニメなどの衣装を組み合わせてイメージすれば思い通りの……いや、イメージ以上の出来栄だった。
鋼化糸はシュリナの薬学の知識で硬さを落とさず糸の様に扱える薬剤を開発、ファンタジー小説で見るただの服が、なんでそんなに防御力が高いんだい! というのを見事に再現できたのだ。
チート服なのにお洒落で可愛い! あっ、一応僕のは青をメインに男が着ても恥ずかしくないようにデザインさせてもらった。
歌う曲は転生前で聞いた有名曲がベース。ユーコに歌や振り付けを教えてもらいながら頑張って覚えた…… (オンチ ダッタノデ ボクハ フリツケダケ)
特訓の結果、それなりのものが完成。奏者はいないので歌だけだがユーコとシュリナの立体的な歌声で魅了する。
ユーコは歌はうまいが、圧倒的にコミュニケーション能力が皆無。そのあたりは僕がマネージャばりになんとかするということになった。
決行日は1週間後、ノブナガのアイドルユニット『ゼヒニオヨバズ』が大きなパフォーマンス大会に出るとの情報を掴んだ。
即席ユニット『イコマキツノ』、僕たちもそれに申し込んだのだ。このユニット名はユーコの提案、織田信長の最愛の人物である。それを聞いたノブナガが人の心を取り戻し、ミサキたちを解放してあげて欲しいと願ったのだ。




