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第16話 リンナとミサオ、ふたりの姉さん

 ハプーン家はインフェルザン王国の子爵を冠する名家。女の子しか生まれない血筋で婿を取る珍しいしきたりを持つ。娘の中で一番良い旦那を見つけた子が次期当主として子爵を継ぐのである。


 現ハプーン家に生まれた女性は3人、長女のリンナ、次女のミサオ、そして三女のバーバラが次期当主となるべき日々努力をしていた。


「バーバラ、体は大丈夫? 何があったの? 門兵さんから連絡をもらった時は心配で胸が張り裂けそうだったわよ」

「え……と、どちらさまでしたっけ?」


「ハプーン家のお嬢さん、この子は記憶を無くしているようです。よっぽど怖いことでもあったのでしょう」

 

 門兵の言葉に優しく微笑む女性。感謝と心配が入り混じった表情はいかなる男性をも虜にしてしまいそうなほどであった。


「姉のリンナよ。あなたは妹のバーバラ、今日の所は家に帰ってゆっくり休みましょう」


 バーバラの姉って優しいなぁ。それにあの笑顔……美人だし心まで溶かされそうだ。


「バーバラ、大丈夫!」


 息を切らせて入ってきた女性。


「ミサオ、あなたも来てくれたの?」

「当たり前でしょ姉さん、バーバラに何かあったと聞いたらいてもらってもいられないわ」


 ふたりとも優しいなぁ。こんなに本気で心配してもらえたことなんてあったかなぁ。こんな人が彼女だったら幸せになれそう。


 ふたりに手を握ってもらい家に帰った。道中、色々なことを教えてくれた。父のこと母のこと、学校のこと……


《主は簡単に人を信用しすぎるのじゃ、彼女らも中々の曲者じゃから気を付けるのじゃぞ》


 まっさかぁ、こんな優しいお姉さんたちが醜い心を持っているとは思えないんだけど。冷たい人ってのはどんなに繕ってもどこかしらに(ほころ)びが出てしまうと思うんだ。


 家に到着するまでずっと優しく声をかけてくれた姉さんたち、すれ違う人々も気遣う声をかけてくれる。ハプーン家の娘たちはとても人気があるようだ。


 連れられたのはグラッセス家ほど大きくないにしても立派なお屋敷、ほんのりピンクのかかった可愛らしい家だった。

 門を抜けると、バックスが遠目に心配そうな目を向けている。彼は迷宮からはじめて出たときに街まで馬車を牽いてくれた男、バーバラととても仲良さそうにしていた。


 彼に挨拶をしようとふらふら歩き出すとミサオが声をあげた。


「バーバラ、あなたにはこれからやるべきことがあるの。従者たちのことはいいからとっとと付いてきなさい」


 なんだなんだなんだ……どうしたんだミサオ姉さん。いきなり態度が一変したぞ。

 言い捨てるような言葉をリンナが咎める様子もないし……どうなってるんだ。



「お母様、バーバラを連れて戻りました」

「バーバラはどうだったの?」

「どうやら記憶を無くしているようです。街の外に経験値稼ぎに行ったときに何かあったのでしょう」

「ふぅー、だからレベルを上げるのは止めなさいって言ったのよ。まぁいいわ、その年ならまだ教育し直せるでしょ。ミサオ、今日は部屋に閉じ込めておきなさい」


 なんだこの家は。敷地に入ったとたん優しさの()の字も無くなったぞ。


 自分の部屋に軟禁された……とても可愛らしくて女の子の良い匂いがする部屋。

 知的な本が並び、おしゃれな調度品になぜかドキドキさせる雰囲気。部屋の中を家捜ししてみるとありえない物が出てきた……。


「こ……これって……」


 男女の営みをサポートするようなグッズ、実物を見たのは初めてだが過去の知識にある形と一緒、なんでこんなものが……。


《死者操作が1上がりレベル8となりました》


 ガチャ━━


 ビクッゥゥ……うわぁぁ。後ろめたさのせいか必要以上に驚いてしまった。


「バーバラ様、夕食でございます。……あら、とうとうそちらの方を勉強する気になったんですか」


 入ってきたのはメイド、その言葉の意味って……「ごめん、どうやらボ……わたし、記憶を無くしているようなの。なんのことか教えてもらって良いかしら」


 メイドはテーブルに食事を並べながら説明してくれた。


「この家に生まれるのは全て女性。お嬢様たちは当主の座を争っているのです。知力でも体力でも器量でも何でも良い……それは夜の営みを生かす時に使う道具となります。どんな手段を使っても一番良い婿を見つけた人が次期当主になるんです」


 顔色ひとつ変えない笑顔のメイド、更に「バーバラお嬢様も頑張って下さい。強い男を見つけるべく一生懸命にレベルを上げていましたものね。立場的に特定のお嬢様を応援はできませんが、皆様が素晴らしいお婿様を見つけてくることを願っております」と会釈をして部屋から出て行った。


 バーバラは成績優秀で運動も得意。確かにいい男探しに余念が無いって感じだったよなぁ。


 大量の本が並ぶ本棚、よっぽど勉強に明け暮れていたのだろう。


 それにしても凄い本の量だな……1冊取ってはペラペラめくり、1冊取ってはペラペラめくる。


「全部の本に勉強した形跡があるんだけど……ん? これだけ表紙と中身が違うぞ」


 隠された本に書かれた文字を目で追っていく……これはバーバラの日記。思わず見入ってしまった。


 ガチャ━━


 急に開いた扉に驚いてしまった。思わず異空間に日記を収納してしまう。入ってきたのはリンナだった。


「バーバラ、明日は家にいなさい。これからのことについてお母様から話しがあるわ」


 淡々と要件を伝えるとそのまま扉を閉めてどこかに行ってしまった。


 今まで僕は何を見てきたのだろう。日記に書かれたリンナとミサオへの憎悪の数々……バーバラが良い男を見つければ姉がそれを奪ってしまう。

 学校ではクラスメイトの男たちに嘘を吹き込んで恋愛対象を潰し、男友達を家に招待すればさりげなく営みグッズを放置する。悪びれる様子もなく「進展が早くなるように協力してあげたのよ」と言い放つ。


「ひどいな……」

《フフーン》


 ウルドがドヤ顔をしている……「ごめんなさい、ウルドが正しかったです」


《フフーン、そうじゃろそうじゃろ。なんせ我は時の神じゃからな》


「ウルドは恋愛したことあるの?」


《我は神としては若いでな。神力を結合させたい相手とまだ出会ったことないぞ》


 うーん、いや……これってどう返したらいいのだろう……。神力を結合させるってなんだよ。思わず変な妄想をしちゃったじゃないか! 


《とりあえず今日は寝るのじゃ、これからのことは明日話しを聞いてから決めれば良いのじゃ》


「そうだね……何かあったらまたエアフィルダール迷宮に戻れば良いんだから……」



 ◯。 ◯。 ◯。


「絶対にこの家から出ていってやるわ。リンナお姉様もミサオお姉様もみんな嫌い。お父様やお母様だってそう……私がハプーン家を絶対に潰すのよ」


 ん……夢か? 


「蜘蛛レオンはどこっ」っとブツブツ言いながら魔物を狩っているバーバラ。


『そこのヒトー』


 目の前にいるのはフードを着た小さき者……軽いノリで話しかけてくる声は可愛らしい女性の声。


「誰? 私に何の用があるの?」

『すっごい強くなりたそうなオーラを出しているから力を貸してあげようと思ってさー』

「いや……ノリは軽いしめっちゃ怪しいんだけど」



 ……なんだなんだ……世界が歪む……何を……何を話しているんだ……聞こえない……



『いーい、どんな感情でも良いから一番強い気持ちを出すんだよ。その分強さが増すからね』 


 ……


「リンナ姉様……ミサオ姉様……許さない、絶対許さない……」


 ……


「お父様……お母様……絶対に、絶対に許さないんだから……」


 ……


『やっぱり、中等生の怒りじゃこんなものですね……』

「わたし……ダメだったの? 強くなれなかったの……」

『大丈夫だよ……大丈夫だからね。十分に強くなった……強くなったよ……これから理想の世界を一緒に作って行こうね……』



 ◯。 ◯。 ◯。



 そして朝がきた……


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