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魔術師たちの匣庭  作者: こたちょ
3章 魔術師学園編
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9. イグニス大噴火

 ちょっとした憂さ晴らしのつもりだったのに、イグニスが思った以上に怒ってしまった。


 休火山が噴火し、炎が大地を割る。気づいたところから修復を行なうが、範囲が世界規模。全てを対処できない。

 うんざりするサーシャに、アクラも呆れた息を吐き出した。


「アレは単純なんですから、変にちょっかい出さないで下さい」

「ごめんね。失敗した」

「今からでも契約したらどうです? 懐に入れてしまえば単純バカも落ち着くと思いますよ」

「やだ。殴られんの嫌い」


 実年齢の割に子供じみた言い分だと、我ながら思う。けれどイグニスのコミュニケーションの方法がどうにも好きになれない。


 初顔合わせで既に関係が拗れているのでガチで殺しにかかってくるだろう。

 契約すれば魔法攻撃は無効になるが、物理攻撃に関しては普通に効く。石で殴られるような一撃で、サーシャは過去に何度も負傷している。


「なら、殺しますか」

「いや、どうせすぐ忘れるでしょ。イグニスは単純だから」

「アレは単純ですが執念の塊です。この先百年はサーシャ様の事で頭がいっぱいでしょう」

「まさか」


 アクラの懸念をサーシャは鼻で笑う。

 契約していない精霊神は自己が全て覚醒していない。契約前の反応は自然の本能だ。そこに感情は乗っていない、はず。

 いや、確かにイグニスは感情爆発させてたな。アレは何故? 頭を捻るも答えを導くことはできなかった。


 膝の上で頬杖をつきながら、目前の儀式を見守る。

 現在は契約の儀の真っ最中である。Aクラスから順に妖精たちと契約を結んでいく神聖な儀式。

 イグニスの怒りが、時折地震となって講堂を揺らすが大きな影響はない。……と、サーシャだけが思っている。


 ルートヴィヒがサラマンダーと契約を結ぶ。彼らの関係は鼻から良好だ。

 火妖精のサラマンダーは、常に貴族の少年の周囲を飛び回っている。火属性と親和性の高いルートヴィヒの魔力は、彼女にとって居心地のいいものなのだろう。今はまだ妖精を認識していないが、いずれそちらの才も花開く。

 いつの回想でも二人は仲良しであった。


「あ」


 二人の様子を見ながら、不意にサーシャは頬杖を外す。いいことを思いついた。自分もルートヴィヒと仲良しになればいいのだ。Aクラスに配属が叶わなかったので、通過証をもらうことができなかった。当初の目的である、学園調査が一向に進んでいない。


 前世ではあまり仲良くできなかった彼だが、今世はうまく利用できないだろうか。生徒たちからの支持は熱く、八の割合で人格者である。嘆願すれば大抵場合聞き入れてくれた。

 サーシャは早速実行に移すことにした。



「ルートヴィヒ様、さすがです。尊敬してます。友達になってください」

「…………」


 中庭で友人と共にいるところ強引に割り込み話しかけた。

 多方から悪態をつかれ、小さな拳が飛んでくるが受け流す。ただ一人、呆気に取られ、目を見開いている子供にサーシャは畳みかけた。


「ボク、友達がいなくて。ずっと寂しかったんです。ですからルートヴィヒ様がお友達になってくれたら嬉しいです!」

「…………」


 生徒たちだけでなく、アクラからも鋭い視線が刺さる。確実に呆れている。


 長年ぼっちを極めてきたため、人間の友達の作り方がわからない。ルートヴィヒの周囲の人々は上記のように彼を崇め奉るので、それに倣ってアプローチを行った。ごますり、あかすり、何でもござれ。プライドなんて知らない。


「君は、確かサーシャ……」

「ああ! 感激です! 適性ゼロに名前で読んでいただけるなんて! 不出来の代名詞たる学園の恥さらしに、本当にありがたきお言葉」

「不愉快だ」


 話している途中でルートヴィヒが席を立つ。

 サーシャの自虐を笑って聞いていた彼の友人も、貴族の少年の態度に首を傾げた。突然機嫌を急降下させたのだ。なんで?


 慌てて更なる卑下の言葉でルートヴィヒを追うが、美しき一瞥に口をつぐむ。


「悪いが、君と友人にはなれない」

「え」

「他をあたってくれ」


「身分を考えろ、バーカ」

「不幸が移る。貧乏人が」


 去っていくルートヴィヒの後ろを、友人たちが追って行った。サーシャにいつもの暴言を吐いて。


 前世では彼の方からグイグイ来たのに、かなり淡白にお断りされてしまった。予想外の展開に呆然としていると、何処かからアクラが現れる。


「流石にわざとらしすぎます」

「え? 何が? どこか悪かった?」

「あの子供はサーシャ様の実力に気づいてますよ。ですから極端な自虐が、バカにされていると思ったのでしょう」

「えー」


 そんなつもりは全くない。確かにルートヴィヒは勘もいいし、魔力も高品質。サーシャの猫被りに気付いてもおかしくないが。

 ……そんなに怒ることだろうか?


「サーシャ様が動くとろくな事になりませんね」

「へ?」

(イグニス)も、人間の子も。いっそ今世は大人しく過ごしませんか?」


 心挫ける一言。一日一ポカの失態を犯し続ける毎日に、流石に黙るしかなかった。

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