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魔術師たちの匣庭  作者: こたちょ
3章 魔術師学園編
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7. 火の聖域再び


 無事に、つつがなく、想定通りに、属性チェックにて砂時計をぶっ壊したサーシャは独房へとんぼ返りをした。


 チェックをうまく回避すれば良かったのだが、抵抗の段取り悪くあれよあれよと事が進み、気づけば壇上であった。

 砂時計には妖精が宿っておらず、嘘偽りのない結果が出てしまう。器である自分は精霊のための存在なので全属性相性が良いに決まっているのだ。

 当然三属性の砂時計はサーシャのずば抜けた特性に爆発し、少年は再び激しい叱責を受けることとなった。


 それは更に数ヶ月を経た今でも続いている。

 すっかり独房暮らしが板に付いてきてしまった。でも早くクーロの管理する寮塔に移りたい。移住の許可は一体いつ貰えるのだろうか。


 属性チェックの後に行われるのは、精霊たちとの契約である。

 セルゲイが地下牢にやってきて今後のスケジュールを教えてくれた。


「明日、ハルハドが管理する聖域に出発する。準備しておけ」

「わかりました」

「しかしお前は徒歩だ。我々は馬車で行くが、まだまだ罰が足りないようだから追加で制裁を加えるよう、教育担当者会議で決定した」


 サーシャは『徒歩』という言葉に口角をあげた。


 やった! 今まで馬車の移動が死ぬほど辛かったんだ。徒歩ならば自分で好きに動ける。鈍った体も鍛えられる!


 喜びから齎される震えを、別のものと勘違いしたセルゲイは慰めるように肩に手を当てる。


「確かに俺も行き過ぎた決定だと思っている。子供の足で行ける距離でない。魔物に襲われる心配もある」

「大丈夫です。でも何故追加の罰が出たのでしょう? 大人しく引きこもってたのに」

「反省文の内容が悪かった。初めと終わりだけ真面目に書いて、真ん中は白紙だったろう。よくあれで通ると思ったな」

「Fクラスの生徒のすることに誰も関心なんてないと思ったからです。反省文なんて誰も本気で読まないでしょうし」

「それを本人が言うな」


 軽く小突かれ、言うことを言って担任は立ち上がる。「それじゃあ明日な」と手を振ったのでサーシャも振り返した。




 そして翌日、Fクラスの馬車を見送ってサーシャは早速風魔法で己を包んだ。

 風の隙間を縫うように進んで行く方がずっと快適だしずっと早い。アクラと手を繋ぎながら上空へと飛翔する。


「はー、肩凝った。あんな狭いところにいつまでもいられないよね」

「お疲れ様です。ふふ、風が気持ちいいですね」

「うん。地下牢でも妖精が何かと手伝ってくれたけどやっぱり野外が一番だな」


 ウェントスがいない状況ではそれほど風魔法の精度は高くない。けれど目的地は同じ国内であるため、幼い子供の魔力でも全く問題はない。

 渡り鳥と並行して飛びながら、数時間してサーシャたちは聖域へと到達した。


 聖域に着くと、近くの丘にAクラスの飛空艇が止まっているのが見えた。聖域の入り口付近に説明を受けるAクラスの子供たちが居て、サーシャはその後ろをサクッと通過した。通過する直前、フードを目深に被ったので誰も自分だとは気づかないだろう。


 森を横断し、崖を飛び越え、滝を降り、一日かけてサーシャたちは火の聖域を踏破する。一晩野営して明日聖域にもう一度入ろう。

 近くの魔物を狩って夕食を済ませ、その日は就寝した。


 翌朝目が覚めてサーシャは再び聖域の中に入る。一度踏破してリセットされた聖域は火の聖域へと様相を変える。中央に火の山がそびえ立ち、どう進んでも山の方に向かってしまう仕組みなっている。しかも山に近づくにつれ火魔法以外の魔法に制限が加わっていく。


 何度も通ったその火の山へのルートを、サーシャは完全に覚えている。

 一度も上空に上がって自らの位置を確認することなく少年はただ一心に足を進めた。道中の沸騰する炎の川も進み方を熟知している。

 特に問題なく川の中を通過し、火の山の麓へとたどり着いた。

 岩に腰掛けて居た火妖精のお姉さんがサーシャを見て嬉しそうに飛んでくる。


「ここから先は神様の山よ。人間が来るのなんて何時ぶりかしら」

「うんうん」

「一度入ったら、途中で戻れないわよ。準備はいいのかしら?」

「勿論」


 お姉さんが案内を申し出てくれたが、サーシャは辞退した。文字通りここの道順も罠も熟知しているのだ。

 断ったのに火妖精が辺りに群がり、サーシャの手際の良さに感心して息を漏らす。


「坊や、何故そんなに知っているのかしら?」

「何回も来たことあるからね」

「不思議。覚えてないわ。坊やみたいな子が来たら絶対忘れないのに」

「ふふ」


 岩の落下も、体を溶かす蒸気の噴出口も全て知っている。

 過去に何度も失敗して、何度もここで命を落とした。今ならば目を閉じてだってタイミングを測れる。

 途中足場が崩れ、渡れない箇所があり風魔法を使って飛躍してみた。すかさず火の精霊神からの制裁を受けるが流した。


 半日もせずサーシャとアクラは火の山の頂上へと到着した。

 朽ち果てた神殿に向かう途中でアクラが足を止め、「頑張って来てくださいね」と頭を下げる。

 神は基本自分の聖域の中心に他の神を招かない。誰でもウェルカムなアクラは例外中の例外だ。


 よって精霊神との契約の儀は器一人で対処しなければならない。器が器足り得るのかを測る、一つの試練と言えよう。そこで死ぬようであれば精霊王の器になる資格はない。


「行ってくるね〜」

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