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魔術師たちの匣庭  作者: こたちょ
3章 魔術師学園編
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5. 独房の生活

 サーシャは一人独房の中にいた。


 なんで?


 首を傾げても誰も様子を見に来ることなく、必要最低限食事の供給をされるだけだ。アクラを除いて。


 誰も来ないことがむしろ都合が良いと、アクラは紅茶と茶菓子を用意してくれた。

 普通に鍵を開けて、フカフカの布団を持ってきて寒い石造りの床に敷く。元々部屋にあったのは薄いブランケット、脚の低い勉強机、それだけだ。灯りのない部屋は夜になると真っ暗で、前後左右もわからなくなる。


 何もない独房であったはずなのに、アクラの献身的な行いにより着々と快適な環境に変貌していった。

 過保護はやめてと言っているのに。


「それで、サーシャ様は何故こんなところに入れられたのです?」

「わかんない」

「何と。ということは不当な対応なのですね。愚かな人間どもはまとめて海の藻屑にしましょうか?」

「しなくていい。そうじゃなくて、わかるけど、理解したくないっていうか」

「?」


 サーシャはつい先程まで教室で適正試験を受けていた。試験の結果が出た途端、いきなり体を抱えられ、有無を言わさず地下牢へと放り込まれたのだ。

 その時に飛んだ罵倒によって何故こんな扱いを受けているのか理由が分かった。


「神聖なる適正検査を、俺が不正な手段で汚したと思ってるみたい」

「はい?」

「代々伝わる、初代学園長から受け継がれた時計に細工し、注目を浴びたいという子供じみた欲求のもと、判定を狂わせたと」

「…………」

「その上、皆が崇めるルートヴィヒの晴れ舞台にケチをつけたと。俺がいなければすんなり彼への称賛の舞台へと移れたのに」


 しょんぼりと首部を垂れるサーシャにアクラは手を伸ばす。優しくその頭を撫でた。


「お可哀想に。やはり下らない言い分ですので学園諸共、大海に沈めましょう」

「いや、いい」

「サーシャ様は慈悲深い。それはさておき、私は改めてあなた様に驚きました」

「なに?」


「サーシャ様は、たかだか六歳児の試験も解けないなんて。一体何回、学生をしてきたのです?」


 ズガンッ


 と、直球の言葉が胸に刺さり、サーシャは壁に頭をぶつけた。

 本当、ガチで、心の底からその通り。

 子供のテストすらわからないとか致命的すぎる。頭が悪いにも程がある。今まで全力で目を逸らしていた事実に直面し、サーシャは言葉もない。

 ワナワナと唇が震え、それを見たアクラは慌て始める。


「あ、泣かないで下さい。ほら、涙を拭いて」

「うぅ。ホント、不甲斐ない限りデス」

「いえ。サーシャ様が使うのは魔法なので人間とは理が違うのですよ。理解できなくとも無理はありません。サーシャ様は只の人間とは異なるのですから。違う生き物の言葉はわからないでしょう? それと同じです」

「…………」


 必死のフォローが返ってプライドを抉る。もう聞きたくなくて、サーシャは枕に顔を埋めた。

 思った以上の頭の悪さにどんどん枕が涙で濡れる。子供に返ったので打たれ弱くなってしまったのか。アクラのフォローは続く。


「しかし、配属先がFクラスのままでやはり良かったのでは?」

「どうして」

「だって今の学力は最底辺ということでしょう? Aクラスに配置され、高度な学術書を手にしてもサーシャ様は理解できないのでは?」

「………」

「研究機関や図書室の利用が出来ないのは不便でしょうが、そちらもサーシャ様が使いこなせるとは思えません。あなた様には絵本がお似合いですよ」

「………」


 聞きようによっては更に馬鹿にされているフォローの言葉だが、サーシャはガバリと布団から身を起こす。

 初めて気づいた事実に素直に頷いた。


「成る程。確かにそうだね」


 アクラ、凄い。全然気づかなかった、とサーシャは彼に尊敬の眼差しを向ける。

 そのアホ全開な顔をアクラは贔屓目なしに可愛いと思っているので神も相当頭がイッている。


 ツッコミ不在の平和な空間は数日続いた。

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